駐車監視員資格者講習 ばっちり合格体験記
すでに受講した方、これから受講しようという方もおいでだろう。何をって「駐車監視員資格者講習」を。
ご存知のように、06年6月から、「放置車両」の取り締まりが「民間委託」される。都道府県から委託された会社に雇われた「駐車監視員」が取り締まり(「確認事務」)を行うことになるのだ。
具体的には、デジカメで違反車を撮影して「確認標章」というステッカーを取り付ける。そこには「違反者が出頭して反則金を払わなければ、クルマの車検証上の使用者が『放置違反金』の納付を命じられる」という趣旨のことが印刷される。この制度は重大な問題をはらんでいるのだが、今回は忘れて話を進めよう。
警察OB以外が「駐車監視員」になるためには、2日間にわたる講習(1万9000円)を受けて考査に合格しなければならない。その講習が05年6月あたりから全国各地でスタートした。「交通違反一筋20年」と名刺に刷ってる私(正確には05年で22年目)としては、うずうずするじゃないの。なので05年6月27、28日、受けてきたですよ、講習を。
前夜は緊張してなかなか寝付けなかった。なんだか小学生のころを思い出してしまった。
りんかい線という初めての電車に乗って着いた先は、東京ビッグサイト。4本足の巨大な未来オブジェのような、ものすごい形の建造物だった。そこへ、どっちかといえば場外馬券売り場で見かけるような服装の男たちがぞろぞろと吸い込まれていく。私は前々日にユニクロのセールで買った若作りのシャツだ。
会場はその1階、レセプションホール。
広いっ! 3人掛けの長机が横15列、縦23列ずらーっと並んでいる。なんせ1000人が一斉に受講するのだ。すごいよ。
一番前でしっかりお勉強しようと思ったが、席は受講票の番号順に決まっていた。私は半分より後ろのほうだった。
講習は9時30分開始。
1時間ずつ午前に3時限、昼食を挟んで午後に4時限。受付で配布されたテキスト『駐車監視員資格者必携』(東京法令出版)に沿って行われた。
受付も講師も全員、警視庁の職員だ。「ひょっとしたら来年、私といっしょに仕事される方もいるかもしれない」と交通執行課の男性が言っていた。紅一点の女性講師は、駐禁取り締まりの経験がだいぶあるようだった。
1時限目にこんなことを言われた。
「テキストの書きぶり、表現をそのまま素直に覚えていただけば、必ずや合格すると思います。考査の問題に出そうなところ、監視員としてこれだけは覚えておいていただきたいというところは、何度かくり返し講義します。そうでないところはさらっと読んでいきます」
ははあ、停止処分者講習(免停期間を短縮する講習)は、最後のテストの結果によって短縮期間が決まるが、どこがテストに出そうか教えてくれる。あれと同じ感じなのだな。
じっさい、各時限の終わりに「とくに大事なところ」をおさらいするので、みんなそこにせっせと線を引いた。
最初の何時限かは、違法駐車はなぜ迷惑かとか、どんな対策があって取り締まりはどう位置づけられるかとか、概念論ばかりで眠かった。「きょうは絶対に居眠りしないぞ」と固く決意してきたが、ついこっくりしてしまった。
見ると両隣もけっこう居眠りしていた。背伸びしつつ会場を見わたすたびに、少なくとも1~2割が寝ている、そんな感じだったろうか。昼食後はとくにひどかった。私の近くの若者は、もう体を傾け、ほとんど寝ていた。そんななかを、写真つきの申込書のファイルを手にした職員が、受講者がちゃんと席についているか何度もチェックしてまわるのだった。
午前と午後に少し休憩があり、大量の受講者がトイレと喫煙所へ流れた。
喫煙所は屋外なのに、100人か200人が一斉にタバコをぷかぷかやるものだから、煙でもうもうだった。
なにげに尋ねてみると、警備会社で働いていて、1万9000円の講習料は会社持ちという人が多かった。制服姿もちらほらいた。「うちは100人できた。200人の会社もいるんじゃない?」という声も聞こえた。
200人なら受講料は380万円。日当や交通費も出してるのかも。それだけ投資しても儲かるってことか、この「民間委託」は。
昼休み、建物内のコンビニは長蛇の列となった。
おにぎりの棚など人だかりで、ようやく棚が見えたときは空っぽだった。私は小さなカレーパンとフライドチキンを買い、外のプラスチックの椅子で黙々と食った。友だち、いないんだもん。
午後の講習から、だんだんと実務的なことに入ってきた。
監視員は朝、会社(「放置車両確認機関」と呼ばれる)の事務所から警察署へ行き、連絡事項を聞いて携帯端末(専用のデジカメとプリンター)の貸与を受け、巡回計画書をもらう。そして、決められた巡回ルートにしたがって「確認事務」を行い、最後に警察署へ戻って携帯端末のデータを警察の装置に転送する。使わなかった「確認標章」は返却する。会社へ帰って事務日報を作成して提出。こうして1日の仕事が終わるのだそうだ。
2日目の講習は、もっと具体的になった。
一口に駐車違反といっても、駐車の態様や、そこが指定禁止場所(標識で駐禁とされる場所)かどうかで、何条何項何号の違反になるのかちがう。ミスるとトラブルになるので、こういう場合は何の違反、この場合は何の違反といちいち説明していくのだ。テキストには必要な法令がすべて掲載されていた。
こんなの普通は絶対わかんないだろ、テレビのクイズ番組にぴったりだな、と思えるものがけっこうあった。私はおもしろくてたまらなかったが、「わけわかんねえ」という人もたくさんいたのではないか。
最後の1時限は、「とくに大事なところ」の総ざらいだった。
ずっと寝ていた若者も、このときは起きてテキストに線を引いた。なんだよぉ、調子いいなあ(笑)。
くたくたになって午後6時10分、計14時限の講習が終わった。
1週間後の7月4日、同じ会場で「修了考査」があった。
マークシートで正誤式。1問2点。1時間で50問に回答し、90点で合格。
落ちると最初から1万9000円を払って講習を受けねばならないという。交通違反専門の私が落ちたら恥だし、また「カネくれ」とは女房殿に言えない。私はみっちり勉強した。クイズのような違反認定の〝法則〟もわかり、「これでカンペキだ!!」となった。
それでも当日、席につくとドキドキした。
しかも、問題用紙に受講番号がふられており、「自分の問題用紙を取ってください」というではないか。まさか、警視庁は私にだけ超難問を与え、落とすつもりか!?
いや、緊張ゆえの妄想で心を乱してはならない。明鏡止水。
私は1問ずつ慎重に慎重にマークシートを塗りつぶしていった。20分で終わり、念のためさらに慎重にチェック。なんと、まちがえて塗りつぶした箇所を発見。危ねえっ。さらに念入りにチェック。
こうして1時間の考査が終わった。ふうっ。どっと気がゆるんだか、吐き気を覚えてしまった。
2時間後、合格発表。
合格率は、ざっと見た感じ6割台のようだった。落ちた人はぞろぞろ帰っていった。会社で叱られるのだろうか。
私? もちろん合格しましたよぉ。うれしかったですぅ。
会場に残った合格者に「駐車監視員資格者講習修了証明書」が配られた。これに、薬物中毒者でないことの診断書などをそえ、9900円払うと「駐車監視員資格者証」をゲットできるのだ。資格は一生もので、全国で使える。
え? 真っ向から制度を批判する今井亮一を雇う警備業者はいないって? ま、そりゃそうだろうけどさ…。
※以上、『ドライバー』誌、2005年8-20号より。
※当ブログのプロフィールのそばに現在あるのが、その資格者証です。後日、情報公開で調べてみたところ、単価は100円だそうです。
←2015年1月23日追記: 長きにわたり「社会・経済(全般)」のカテゴリーでやってきたが、前夜、「裁判」のカテゴリーを発見。知らなかった、そっちのほうが断然なじむじゃん! つーことでさっそく変更したっ。
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