無罪病と有罪病
3月22日付けの毎日新聞、「正義のかたち:裁判官の告白/2 木谷明さん、30件超す無罪判決」。
すごい人もいたもんだ。一度も無罪を書いたことがない裁判官も少なくないとか聞くのに、「30件超す」って…。『週刊新潮』は“無罪病”とぼろくそ叩いたのかな。
記事中に、「白鳥決定」に関して、こうある。
1952年1月21日、札幌市警本部(当時)の白鳥一雄警部が射殺された。日本共産党札幌地区委員長(94年死亡)が、国外逃亡した実行役に指示したとして逮捕・起訴され、最高裁で63年、懲役20年が確定する。委員長は65年再審請求。札幌高裁に棄却されるが、異議を申し立て、同高裁の木谷さんの部に舞台は移った。
50冊を超す記録を読み、唯一の物証だった2発の弾丸に疑問を持つ。確定判決は「事件が起きた52年1月上旬に札幌郊外の山中で試射した弾丸」と認定したが、発見されたのは、事件の1年7カ月と2年3カ月後だった。発見されるまで土に埋まっていたのに腐食がない。新たな鑑定書も「長期間土中にあれば、弾丸の表面にひびが入る」と指摘しており、証拠の捏造(ねつぞう)を疑った。
おお~、「菅生事件」も1952年の、6月のことなんだよね~。
「菅生事件」は、警察組織を上げてのデッチ上げのスパイをやらされた警察官を、記者らが発見するという仰天の展開があり、無罪とされたけれども。
証拠の捏造(ねつぞう)、事件自体の捏造をやってのける体質が、現代にも引き継がれているわけだ。
毎日の記事の最後は、こうなっている。
木谷さん流の表現では「検察官が有罪と認めさせる十分な証拠を出したか」が裁きの基準だ。弾丸に感じた「証拠捏造」の可能性も忘れず、証拠を深く吟味した結果が、多くの無罪判決につながった。
裁判員が臨む法廷では、過去の事件を完全には再現できない。だから、と木谷さんは説く。「裁判で絶対的な真実を発見することは不可能と割り切ることが必要。想像で証拠を補ってはいけない」
「裁判で絶対的な真実を発見することは不可能」
同趣旨のことを、私は『裁判中毒』で何度か言及した。
傍聴を続けてると、やっぱどうしてもそのことが痛感されるのだ。
そして、木谷さんが言う「割り切り」を、99.99%、裁判官はできないってことも。
裁判官が「発見」するのは、
・有罪の理由
・被告人側の主張・立証をなんとか怪しむ理由
である。有罪の証拠が怪しいときは、想像で補って有罪とするのだ。
“有罪病”なのである。
じゃあ、裁判員裁判なら、無罪を無罪とできるのか。 ※「無罪」と「無実」の違いについては『裁判中毒』参照。
私は、ムリだろうと思う。
裁判官により有罪方向へリードされるかも、というだけではない。
袴田巌さん、守大助さん、ゴビンダ・プラサド・マイナリさん等々の支援を求められたとき、多くの国民は躊躇するのではないか。
「本当にほんとに絶対に無実なのか? 万が一にも騙されてたら、嫌だよぅ。ウソつきの犯罪者を野に放つようなことはできない。警察がデッチ上げたって、確たる証拠もないわけだし」
「無実の者を、警察が逮捕するはずがない。検察が起訴するはずがない。やってないのにやったと自白する(自白調書に署名する)はずがない」
だから支援は躊躇する、それがイコール、裁判における有罪ではないのか。
万々が一、有罪を無罪としたら、一大事。“無罪病”だと叩かれる。
無罪を有罪としても、とりあえず、一部の運動家が騒ぐだけ。事件は一件落着し、警察・検察のメンツは保たれ、被害者も満足する…。“有罪病”とはなかなか言われない。
裁判官も国民(裁判員)も同じなのだ。
“無罪病”と叩かれることはあっても、“有罪病”は問題にされない…これはなんていう病気?
いちばん喜ぶのは誰? 真犯人だよぅ!
※ 守大助さんの事件については、もともと「殺人」がないので、真犯人はいない。
でもって、裁判員制度の怖いところ(の1つ)は、木谷さんや熊本典道さんは「じつはこうだった」と語ってるけれども、裁判員がそれをやったら犯罪になるってこと。
「そんなの平気だ」って人もいるかもしれないが、犯罪になるってことは、刑罰を科されて前科者とされる以前に、逮捕されて長期間身柄を拘束され、家宅捜索もやられちゃうってことだよ。
以下、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」より。太字は今井。
(裁判員等による秘密漏示罪)
第百八条 裁判員又は補充裁判員が、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 裁判員又は補充裁判員の職にあった者が次の各号のいずれかに該当するときも、前項と同様とする。
一 職務上知り得た秘密(評議の秘密を除く。)を漏らしたとき。
二 評議の秘密のうち構成裁判官及び裁判員が行う評議又は構成裁判官のみが行う評議であって裁判員の傍聴が許されたもののそれぞれの裁判官若しくは裁判員の意見又はその多少の数を漏らしたとき。
三 財産上の利益その他の利益を得る目的で、評議の秘密(前号に規定するものを除く。)を漏らしたとき。
3 前項第三号の場合を除き、裁判員又は補充裁判員の職にあった者が、評議の秘密(同項第二号に規定するものを除く。)を漏らしたときは、五十万円以下の罰金に処する。
4 前三項の規定の適用については、区分事件審判に係る職務を行う裁判員又は補充裁判員の職にあった者で第八十四条の規定によりその任務が終了したものは、併合事件裁判がされるまでの間は、なお裁判員又は補充裁判員であるものとみなす。
5 裁判員又は補充裁判員が、構成裁判官又は現にその被告事件の審判に係る職務を行う他の裁判員若しくは補充裁判員以外の者に対し、当該被告事件において認定すべきであると考える事実若しくは量定すべきであると考える刑を述べたとき、又は当該被告事件において裁判所により認定されると考える事実若しくは量定されると考える刑を述べたときも、第一項と同様とする。
6 裁判員又は補充裁判員の職にあった者が、その職務に係る被告事件の審判における判決(少年法第五十五条の決定を含む。以下この項において同じ。)に関与した構成裁判官であった者又は他の裁判員若しくは補充裁判員の職にあった者以外の者に対し、当該判決において示された事実の認定又は刑の量定の当否を述べたときも、第一項と同様とする。
7 区分事件審判に係る職務を行う裁判員又は補充裁判員の職にあった者で第八十四条の規定によりその任務が終了したものが、併合事件裁判がされるまでの間に、当該区分事件審判における部分判決に関与した構成裁判官であった者又は他の裁判員若しくは補充裁判員の職にあった者以外の者に対し、併合事件審判において認定すべきであると考える事実(当該区分事件以外の被告事件に係るものを除く。)若しくは量定すべきであると考える刑を述べたとき、又は併合事件審判において裁判所により認定されると考える事実(当該区分事件以外の被告事件に係るものを除く。)若しくは量定されると考える刑を述べたときも、第一項と同様とする。
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