1キロ違うから公訴棄却とは?
19日(土)の早朝から20日(日)の昼過ぎにかけて、もう完全にご相談等対応だけで終わってしまった。20日(日)午後は、7年前に買い、レンズが傷んで老眼にも合わなくなったメガネ3組、のレンズを替えるため都心の高級メガネ店(レンズ1組定価5万円!)へ出かけ、その途中、15時からの秘密の会議を思い出し、何とか間に合い…。
18日(金)の重要イベント(参加520人!)のご報告は後回しに、同日付け読売新聞の仰天記事について、少しだけコメント。
25キロオーバー「速度測定が不適切」…大阪高裁判決
大阪府大東市内で乗用車を運転中、「ネズミ捕り」と呼ばれる光電式速度測定装置で「25キロオーバー」と判定され、道交法違反の罪に問われた奈良県の会社役員男性(39)の控訴審判決が17日、大阪高裁であった。府警は速度を測る2組の装置を3メートル間隔で設置するよう定めているが、現場の状況から4センチ幅が足りなかった可能性があり、古川博裁判長は「装置が適切に設置されていたか疑問」とし、1審・大阪地裁判決(罰金6万円)を破棄、起訴を無効とする公訴棄却の判決を言い渡した。
男性は2005年10月7日、大東市内の府道で、制限速度(時速50キロ)を超える75キロで走行したとして、府警四條畷署に摘発されたが、「速度違反はしていない」と反則切符の受け取りを拒否し、在宅起訴された。
測定に使われたのは、レーザー光を3メートル間隔で平行に発射し、その区間を車が通過する時間から速度を割り出す装置。署員は公判で「取り締まりのたびに3メートル計測した」と証言した。
しかし弁護側の調査で、現場のチョーク痕などから間隔は2・96メートルしかなかった疑いがあることが判明。仮に4センチ差とすれば、時速は74キロで、超過速度は25キロ未満となる。
判決で古川裁判長は「正確な速度による反則行為の通告がなかった」と述べ、手続きが適正でなかったとして公訴を棄却した。
マニアの礼田計さんによると、この光電式測定機は、以下の画像のどっちかだそうだ。
※写真提供は礼田計さん。
さて、それでだ、この報道を見た人は、みんな思っただろう、「たった1キロ少ない可能性があるからって、なんで公訴棄却(実質無罪)?」と。少し知識のある方、拙著をお読みの方は、みんな思っただろう、「超過速度が30キロと29キロならわかるけど、25キロと24キロで、どうして?」と。
これはねぇ、わかりやすく説明してるヒマがないんで、ヒントだけ言っとくと、道路交通法第127条1項および2項に、「当該反則行為が属する種別」「…種別に属する反則行為」ってあるでしょ。その「種別」は、道路交通法施行令の別表第5で、幻覚に、もとえ厳格に定められてるわけ。種別を間違えた場合の是正の手続きについても、127条で定められてるわけ。
それをもとに、「適正な通告の手続きを経ていないから公訴は違法」とされたんじゃないかな。
反則(現在は一般道で超過30キロ未満)か非反則(同超過30キロ以上)かで、公訴棄却とされるケースは過去にいくつもある(秋田のオービス控訴審がそうだ)が、「種別」を理由とした公訴棄却は、私は初耳。高山俊吉弁護士も、たぶん同意見じゃないかと思います。
ただねぇ、報道では、被告人の主張はこうなってるよね。
「速度違反はしていない」
「種別」が違う、とは似ても似つかぬ主張だ。起訴されてから弁護人がどう争ったかはともかく、起訴前に被告人が(被疑者が)「種別」のことで否認していたとは、ちょっと考えにくい。
じゃあ、この判決はナンなのか。報道を見た全国の裁判官諸氏のなかには、「ふぅむ、そこへ落としたか」「そこへ落とすとは、よっぽどアレだったんだな」と思った人がいるんじゃないか。
これも、秋田のオービス事件のように、検察が上告→最高裁が原判決破棄、差し戻し→差し戻し審で逆転有罪、となる?
いや、ま、そりゃわからんけどさ、このケースは、4センチの差という人為的ミスによるものであり、測定機自体の無謬神話にケチをつけるものではないのだから、秋田のケースとは意味がだいぶ違う(比べるのは間違ってる)と思うよ。
以上、よくわからなかった? ごめんね。そしたらさ、今井がワケわかんないこと書いてるぞって、雑誌等に苦情を言ってください。で、私へ原稿やコメントの依頼がきて、ギャラが入って、裁判傍聴に通う交通費&かけそば大盛り280円の費用が捻出され、ネズミが桶(おけ)をかじって桶屋が儲かる、私のやることはどこまでも計算され尽くしてるなぁ。どわははは! ←勝谷誠彦さん風。
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※2016年11月20日追記!
約8年半を経てたまたま読み返した。アホが、なに書いとんじゃーぃ、となった。当時の俺は脳に酸に酸素が足りなかったのか、当時より今の俺が知識の奥行きも濃さも深まっているのか。本件についてはたぶん前者だろう、申し訳ない。
以下は道路交通法第127条第2項のみ。太字は俺。
2 警察本部長は、前条第三項又は第四項の報告を受けた場合において、当該報告に係る告知を受けた者が当該告知に係る種別に属する反則行為をした反則者でないと認めるときは、その者に対し、すみやかに理由を明示してその旨を書面で通知するものとする。この場合において、その者が当該告知に係る種別以外の種別に属する反則行為をした反則者であると認めるときは、その者に対し、理由を明示して当該反則行為が属する種別に係る反則金の納付を書面で通告するものとする。
そして以下は同法第129条第1項の本文部分のみ。太字は俺。
(反則者に係る刑事事件)
第百三十条 反則者は、当該反則行為についてその者が第百二十七条第一項又は第二項後段の規定により当該反則行為が属する種別に係る反則金の納付の通告を受け、かつ、第百二十八条第一項に規定する期間が経過した後でなければ、当該反則行為に係る事件について、公訴を提起されず、又は家庭裁判所の審判に付されない。ただし、次の各号に掲げる場合においては、この限りでない。
超過25キロ以上30キロ未満と、超過20キロ以上25キロ未満は、「種別」が違う。それをもとに「適正な通告の手続きを経ていないから公訴は違法」とされたんじゃないかな…じゃなくてぇ! ずばりそれをもとに公訴棄却とされたんである。
もし「無罪」にしたら、裁判官は無能の烙印を押され、今井の仲間になってしまう。ようこそ~、じゃなくてぇ、これは公訴棄却以外にないんである。
ともあれ、非常に珍しい、希有な形の公訴棄却だと思う。
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