原判決を破棄する。被告人は無罪!
7月18日(金)その1
10時から東京高裁・刑事5部(中山隆夫・田村眞・中島真一郎裁判官)803号法廷で、「窃盗未遂」の判決。
これ、原審(東京簡裁)から、ひょんなことで傍聴し、のめり込んだ、電車内でのスリ未遂の、真っ向否認事件だ。『冤罪File』の創刊号と、拙著『裁判中毒』に書いた。
原判決は懲役1年6月、執行猶予3年。高裁の開廷表にその被告人氏名を見つけ、高裁の審理も傍聴した。第1回は見逃してしまったが、4月21日の第2回、ゴトー巡査の証人尋問、5月19日の第3回、被告人質問、6月11日の第4回、弁論を傍聴した。
ちなみに、第3回までの構成は、中山隆夫・服部悟・田村眞裁判官。第4回の構成はメモしてない。
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裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録 (角川oneテーマ21 B 107) 著者:今井 亮一 |
そして今日、判決。
被告人の妻が、いつもの位置にいた。今日は白い眼帯をつけていた。
ほか傍聴人は、白いシャツに黒いズボンの、役人風の男性が4人、ぱらぱらと。それと、傍聴マニア氏が1人。奥さんも含めて6人。私も含めて、広い法廷に7人。
…でも、まぁ、ダメだろなぁ。奥さん、あんなに頑張ったのに、可愛そうに、また泣くだろうなぁ、と私は傍聴席についた。
9時59分、3人の裁判官が登壇し、判決。
「主文…」
私は傍聴ノートに「本…」と書き始めた。「本件控訴を棄却する」だろうと。
ところがっ!!
「原判決を破棄する。被告人は無罪」
ああっ!! 喉の奥から息が絞り出た。妻が弾かれたように「ありがとうございます!」と泣き声で言い、その後しばらく、激しく泣きじゃくった。
被告人の供述について、判決は、信頼できないとした。
でも、初めて逮捕されて刑事手続きのなかに放り込まれる一般人は、エリート裁判官による紙の上での検討、にさらされることを想定して最初から詳細かつ合理的に矛楯なく供述できるわけではない。つか、そんなの到底ムリだ。仮に、詳細かつ合理的に矛楯なく供述したとしても、捜査段階でそれを書き取るのは、いったん検挙・逮捕したからにはメンツにかけて後へ引けない警察官、検察官だ。被告人の供述のあちこちを拾って、こことこことが矛楯するとか指摘するのは、相当に危ないこと(冤罪を生む1つの原因)と思う。
では、なぜ無罪としたか。
結局、ゴトー巡査の証言が信用できない、と判決はした。
「検挙の確かさを強弁するための作為的なものと認めざるを得ず…」
「ゴトー巡査がいわば功を焦り、被告人の手を掴んだことがあり得た可能性が認められる」
「なんとか辻褄(つじつま)をあわせようとするゴトー巡査の証言態度を裏付けるものである…」
「いささか誇張を含むものが多く見られる…」
最初から否認なのに、被害者(とされる女性)の財布の指紋、駅の防犯カメラの録画の採取・入手が何ら検討されなかったこと、逮捕を補助したウチダミツノリ警部補の、捜査段階での調書が一切ないこと、「私の現認があるからそれだけで十分と思った」というゴトー巡査の原審証言も指摘された。
そして、
「ゴトー巡査の証言に依拠して、ひと1人を有罪にすることは、できないというべきである」
と中山裁判長は述べた。
最後にこう述べた。
「捜査が十分に尽くされていれば、起訴されなかったかもしれない。その意味で、警察にも(検察にも?)良い教訓になったと思います」
10時46分閉廷。
秋山仁美検察官が、帰り際、妻にニッコリ声をかけた。
「長い間、お疲れ様でした」
妻はまた激しく泣いた。
私は思う。決定的な無罪の証拠がなく、水掛け論になれば警察・検察の勝ち。これは日本の捜査・裁判の絶対原則のはず。本件も控訴棄却でおかしくなかったはず。なぜ逆転無罪になったのか。傍聴席最前列で、毎回(第1回も当然そうだったのだろう)大きな荷物を持って見守り続けた、必死さが誰にもひしひしと伝わる、あの被告人の妻、あの妻の必死さが天に届き、天から裁判官らへ“何か”が降りた…きっとそういうことなんだよね、と私は思ったス。
あ~! すごいのを傍聴してしまった。これは報道されるんだろうか…。
しばらく興奮をさまし、11時30分から東京簡裁・刑事1室3係(八木澤秀司裁判官)534号法廷の、「窃盗未遂」の判決を傍聴してみた。開廷表では12時00分までとなっており、そんなに長いってことは否認なんだろう、まさか電車内でのスリ未遂? と。
被告人は身柄(拘置所)。深夜の仮睡盗で、東京簡裁で懲役2年、執行猶予4年の判決を受け、その確定から3カ月後の、深夜のJR山手線の電車内での仮睡盗の未遂、なんだそうだ。
本件判決は、懲役1年6月、未決80日算入。
被害者の尻ポケットに被告人の手指が入ったところを仮睡盗警戒の警察官らは見ておらず、しかし、当たり行為(つまり獲物となる仮睡者の物色)をしていたなど、全体からすれば、物に対する事実上の支配をおかす行為、の着手があったと見なすことができる、というふうなことだった。
言い渡しが終わったのは、なんと12時26分! そんなのアリ!?
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