そしたらもう、野垂れ死ぬしかありません
10時から東京簡裁・刑事1室3係(八木澤秀司裁判官)534号法廷で、「道路交通法違反」の新件。
急いで法廷に入ると、前の「建造物侵入・窃盗」の判決を言い渡してるところだった。被害者は複数いて、1人は24歳のフランス人教師らしい。学校へ入り込んで教職員らの金品を窃取した、そんなふうな事件らしい。被告人は起立の姿勢がびしっとしており、服役前科あり? 八木澤裁判官は、こういう事件は被害者同士お互い疑心暗鬼になったり、そういう迷惑もあることをよく考えて…などと長々説示していた。窃盗の常習者にそんなこと言っても無駄だろうに、とは思うがしかし、明らかに統合失調症と思われる人に、病院へ行くよう、無駄を承知で勧めることも、もしかしてそのうち「あっ、やっぱり俺は病気なのか」という気づきにつながる可能性がある、という意味で有用だと、私は精神科医からアドバイスをもらったことがあるけど、ま、それと同じ面もあるのかもしれない。でも、とにかく、くどくど長い説示と思えた。
10時1分から、「道路交通法違反」の新件。
被告人は60歳。身柄(拘置所)。ひどく痩せてひょろっと背が高く、堀内信明・元裁判官を思わせた。
月の収入は10万円前後、しかし会社から月4万円で普通貨物を借り、寮費が2万1000円で、残りから燃料代など出すと、ほとんど残らないという「古紙回収」の仕事をしており、食事は1日2回のとき、1回のとき、抜くとき、いろいろなんだそうだ。それで2004年に運転免許の更新時期がきたのはわかっていたが、4000円くらいの更新手数料をどうにも捻出できず、免許は失効し、そのまま運転し続け、今年5月、ナンバー灯が切れているとして(被告人によれば接触不良)、停止を命じられ…という事件。寮の荷物は身柄拘束中に「ぜんぶ捨てられちゃって、もう入れません」。
弁護人 「逮捕されてどう思いましたか?」
被告人 「これで…もう終わりだと思いました。仕事も何もかも」
弁護人 「人生、終わりだと?」
被告人 「はい」
弁護人 「今後、仕事が見つからなかったら?」
被告人 「そしたらもう、野垂れ死ぬしかありません」
淡々とした口調が、気のせいか堀内・元裁判官に似てるような。
最近、“派遣”だの“下層”だの話題になってるが、そうした若者たちの行く末として、この被告人はまだ良いほうなんだろうと思う。犯罪傾向はなく、業過の罰金以外に前科はなく、健康状態にとくに問題はないそうだから。
被告人が捻出できなかったという免許更新の手数料、人件費は時給4千ナンボで計算され、どこからどこまで交通安全協会が独占契約していると知ったら、被告人はどう思うんだろう…。
ちなみに、被告人の勤務先かどうか不明だが、「マツザワシギョウ」という業者名が聞こえた。えっ? それって、あの「世田谷リサイクル条例違反」(拙著『裁判中毒』参照)に出てきた業者では?
10時30分閉廷。
10時30分からの、東京高裁・刑事9部(原田國男・田島清茂・左近司映子裁判官)805号法廷の「道路交通法違反」の控訴審第1回を、10時37分頃から傍聴。
これも無免許だった。
無免許で執行猶予判決を受け、その猶予中、妻が運転する車に同乗していたところ、妻の具合が悪くなり(のちに警察で嘔吐)、ダンプなど交通量が多い道路だったため、路肩に駐車して休むのは危険と思い、少し先の駐車場までと運転を交代したところ、一時停止場所で、徐行はしたものの完全な停止を怠って捕まり…という事件。原審は懲役6月(実刑)。
夫(被告人)が刑務所へ行けば、家のローン月々10万円(2053年まで)、車のローン1万円、子ども3人の教育費5~6万円、光熱費5~6万円、その他生活費7~8万円が払えなくなり、家族が路頭に迷う、のでどうか再度の執行猶予を、と。
弁護人は、後期高齢者かと思えるお年寄りで、くどくど長い証人尋問と被告人質問だった。私はイライラしたが、裁判官らは無表情だった。
10時58分閉廷。
どうも体の調子がおかしい。これはあれだ、風邪ぎみなのだ。午後の傍聴はパスして、早く帰って薬を飲んで寝よう、でも、その前に、11時30分からさっきの534号法廷で、元総理大臣と同姓同名の被告人の「建造物侵入・窃盗」の新件(時間からしてたぶん即決裁判手続き)がある。それだけちらっと傍聴して…。
早めに534号法廷に入ると、前の「窃盗」の被告人質問をやってた。
品川駅構内での仮睡盗だった。
検察官 「こういう場所で仮睡盗をやると、縄張りがあるの、知ってます? 警察に捕まる前に、そういう人たちに…」
被告人 「あっ、知らなかったです」
へぇ、仮睡盗に、窃盗団だか暴力団だか知らないが、縄張りがあるのか。仮睡盗をやるなら、許可を得て、稼ぎの一部を納めなきゃいけないのか。犯罪者もたいへんだ~。
被告人(身柄、拘置所)は、ずんぐりしていて、肘から手首までの長さと、手首から手の指先までの長さとが、あまり変わらなかった。
起立の姿勢がビシッと良く、累犯前科を含む前科・前歴多数なんだそうだ。求刑は懲役2年。
11時35分頃から、「建造物侵入・窃盗」の新件。
「自己の体内に」電子機器(新宿で中国人風の男性から20万円で買った「体感器」)を密かに取り付けて中野のグランパへ入り、回胴式の遊技機(つまりパチスロ)で大当たりを引いて遊技用メダル83枚を窃取したところ、防犯カメラのモニターを見ていた店員が、被告人の右手の動きに不審感を持ち、声をかけて発覚したんだそうだ。
この即決裁判手続きの公判だけ、どきどき見かける立会検察官(氏名不詳者。頭薄い)に交代したんだけど、ま~、これほど偉ぶる検察官も珍しいんじゃないか。「俺は偉いぞ。お前はクズだ」というものが、全表情、全仕草から満ち満ちあふれてる、みたいな。
直ちに判決。懲役1年6月、執行猶予3年、訴訟費用不負担。
12時14分閉廷。
どこの食堂へも寄らず、とっと帰る。原稿があと2本あるし。
| 裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録 (角川oneテーマ21 B 107) 著者:今井 亮一 |
3日(木)11時から東京高裁822号法廷で、第2次Nシステム訴訟の控訴審の第2回の口頭弁論期日があるよ~。
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