被害者参加の裁判を追って
先週、この記事を見たわけ。
<被害者参加制度>23日に初の公判 東京地裁
1月16日22時28分配信 毎日新聞
昨年12月に始まった被害者参加制度に基づき東京地裁は、傷害罪などに問われた飲食店従業員の男(21)の公判に被害者の参加を認め、23日に初公判を開くことを決めた。被害者が参加する初の公判になるとみられる。
起訴状によると、男は昨年10月、東京・新宿の路上で50代の通行人男性に対し「一緒にいた仲間に肩が触れた」と言いがかりをつけて暴行したとされ、被害者の男性が公判への参加を申し出ていた。23日には、同地裁で開かれる自動車運転過失致死事件の公判でも、遺族2人が参加する予定。
そしてこう思ったわけ。うむぅ、その「自動車運転過失致死」というのは、14:30~16:30で803号法廷に入ってる新件かな。大きい法廷だし、合議だし、たぶんそれなんだろう。ちょうど傍聴しようかと思ってた…。
もう1件はどれだろう。木曜に裁判所で調べたところ、「傷害」を含むものが数件あった。「傷害」の新件が1件、13:30~14:30で636号法廷(刑事17部)に入ってた。これかな。総務課と17部に尋ねてみたが、どちらも、それは明かせないという。
むむーん。報道では「傷害など」とあるけど、「問われた」となってる。「などに問われ」て逮捕されたが、起訴は「傷害」のみ…かも。でも、636は南側の端っこの小さな法廷。いや、傍聴人が押し寄せそうな事件を小さな法廷でやることもある。まぁ、一(イチ)か八(バチ)かで…。
1月23日(金)
というわけで、まずは地裁636号法廷(三村美緒裁判官)へ。
早めに行ったが、誰もいない。あれ? 廊下の端で、窓から差し込む太陽を浴びてると、女性誌の記者氏(女性)が来た。これですかね? さぁ、これかなぁと思って私も来たんですけど。
13時20分、法廷に入った傍聴人は私とその記者氏だけ。
美女検察官が、新人の若い男性検察官に、いろいろ教えてた。この新人、ま~なんつーか個性的な。1人で立会をやるのを早く見てみたい。
13時27分、被告人(身柄、留置場)が入廷。ロン毛の、少なくとも私より良い男。
記者氏が私に、新聞記事のプリントアウトをそっと見せた。「飲食店従業員の男(21)」となってる部分を指さして。被告人席の被告人は、どう見たって21歳には見えない。違いますよね? えぇ、違うと思いますよ(笑)。そっとささやきあい、記者氏はあわてて出て行った。私はといえば、今から探すのも面倒で、だったら誰も傍聴しないコレを傍聴しようと、636号に残ることにした。
被告人は47歳。韓国籍。通訳はついたが、すべて日本語で流ちょうに述べた。不法残留の状態となってからも、建設作業員として働き続け、前科・前歴は一切なし。なんと離婚した妻へ子どもの養育費を、多いときで月に20万円以上、少ないときでも10万円くらい送金してるんだという。偉いっ
養育費の話が出て、ちゃんと払ってる(しかも大金)という被告人を初めて見たかも。
八王子で生ビール2、3杯、日本酒2、3杯、水割りと梅酒を20杯くらい、普段飲んだことのない量を飲み、なぜか新宿へ出て、以前食事をしたことがある店へ行き、午前5時過ぎ、店のママの夫を殴ってしまったのだという(ケガは2週間)。何をやったか憶えていないのだという。
求刑は罰金20万円。
直ちに“満つるまで算入”で終えるのかと思ったら、次回判決。判決の日、強制退去させるため入管の職員が来て…ということになるんだろうか。
13時59分閉廷。
14時30分まで、まだだいぶ時間がある。のんびり1階へ。
念のためカウンターの開廷表を見たら、なんと、「自動車運転過失致死」は傍聴券で、その締切りは14時 うっそ、先週はそんな話じゃなかったのに。正面玄関のほうを見やると、ちょうど抽選が終わったところだった。
一服してると、阿曽山大噴火さんと、霞ヶ関倶楽部の方が来た(表記は「霞ヶ関」で正しいんだそうだ)。2人は抽選に外れたという。28席だかのところ、211人だか219人だか並んだという。げ~っ、なんで? 報道されたため、また数日前になってばんばん問い合わせがくるとかしたため傍聴券交付となり、マスコミがアルバイトを動員した、そういう事情なんだろうか。
「傷害など」のほうは、じゃあ、718号法廷か526号法廷かどっちか…かな。718号が違ったら非常階段で5階へ降りる、そういう段取りでいこうか…と考えてたら、718号だと阿曽山さんが教えてくれて…。
718号法廷(櫻庭広樹裁判官)は、13:30~16:00、「恐喝・傷害」の審理。
被告人は2人。上掲の報道を見る限り、新件で被告人1人と思え、だから外してしまったんだね~。つーことは、被害者は途中から参加したってわけだ。
幸運にも傍聴席最前列中央付近が空いており、そこへ。
検察官(鼻下とあごに黒いヒゲ)の隣に、焦げ茶のタートルに黒いブレザーの短髪の男性がいた。襟にバッヂがない。検察官でも司法修習生でもないわけだ。なるほど、この人が被害者なのか。作家のどなたかに10%くらい似た、良い感じの男性だった。
茶パツ(つか金髪。脱色?)でロン毛で、若者風のラフな服装の被告人の、被告人質問をやってるところだった。
恐喝は、もう1人の被告人(短めの黒髪で、細いストライプ入りのぴったりした黒スーツ)が持ちかけたんだという。
検察官からの質問に続き、被害者が少し質問(その一部が、かなりの媒体ですでに報道されてる)。
次は、黒スーツのほうの被告人の、被告人質問。恐喝を持ちかけたのは、もう1人の被告人なんだという。
真実がどうか知らないが、複数人で犯罪をやるとき、全員が「俺はやりたくなかったんだけど、あいつに引きずられて…」という認識のことは十分にあり得るだろう、それが人間の心理だ、なんて傍聴席で勝手に思う。
この被告人に対しても、被害者が少し質問。
いずれの質問も、質問事項を予め裁判所に伝えてあるんだね。でないと、意見表明や議論のふっかけになってしまいがち、だからか。
この被害者は、どうも、ただ若い被告人らを責めるのではなく、心から反省・悔悟して更生してもらいたい、というものを腹に持ってるように思えた。
しかし、被告人らは少年院で知り合ったそうで、反省文をさんざん書かされてきたんだろう、手慣れた反省・悔悟の弁のように、聞こえないでもなかった。実刑になって刑務所へ行ったら、今度はどんな連中と知り合うんだろう…。
2人とも、被害者本人に会えてとても良かった、という主旨のことを、若干棒読みのような気もする調子で、ほとんど同じ言葉で言っていた。本心なのか、そう言えと誰かから吹き込まれたのか。
なんにしても、茶パツの被告人よ、口元まで垂れて顔をほぼぜんぶ隠してるその髪を切るだけで、君の人生は一変するよ、きっと。
16時02分閉廷。
ちなみに、速度違反の否認事件では、在宅の被告人が弁護人の隣にいて、証人を尋問することがときどきある。オービス裁判でよく見てきた。
803号法廷の前へ行ってみる。廊下に職員がたくさんいて、傍聴席はほぼ満席で、被告人席にはだいぶ年配の男性がいた。
報道によれば、車とバイクの右直事故だという。昔から起こり続けてる、車対バイクの事故の典型的なパターンの1つだ。
報道をみると、被告人に反省の様子がなくて…みたいになってる。そんなふうな被告人は珍しくない。「被告人が謝罪できないのは、気が小さくて勇気がないからだ」という主旨のことを、被告人の家族が証言したこともあった。
だけど、私は思う、本件の被告人の腹の中に、「俺は安全に右折できると思ったから右折したんだ。被害者があんな猛スピードとは思わなかったんだ」という認識が、事実がどうであるかはまた別として、あるのかないのか…。仮にあるとして、被害者参加の法廷で、出せるんだろうか…。
※ 画像は、傍聴を終えて警視庁へ向かう途中の歩道から見た、法務省の「赤れんが棟」。その背後に2つ密着してる近代的高層ビルは、向かって左が法務省で、右が検察庁。 ※当ブログ容量オーバーが判明。画像は削除。
燗酒をきゅっと引っかけたくなる光景だが、この味わい深い「赤れんが棟」も、早晩取り壊されるんだろうねぇ。
そしたらここに、拘置所をつくればいいのに。未決勾留の場所が、遠く離れた小菅だなんて、フードマイレージならぬ“出廷マイレージ”的にもバカげてるょ。赤れんが館のあとに拘置所をつくってCO2削減。
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コメント
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でも、どうなんでしょうねぇ。
裁判所合同庁舎と、法務省・検察庁と、警視庁の、それぞれ巨大ビルに三方を囲まれた、異様に古びた(歴史的な)低いあの建物、いつまであのまま在り続けるのか…という気がするんですけどねぇ。
あっ、そういえば、近くの法曹会館もだいぶ古そうですよね。
古いといえば、農林水産省の売店・食堂街。街じゃないか(笑)。久々に行ってきましょうか。入館すべき用事はあるんですよ。
投稿: 今井亮一 | 2009年2月 8日 (日) 03時03分
> この味わい深い「赤れんが棟」も、早晩取り壊されるんだろうねぇ。
15年前に復元工事が行われたばかりだし、
同じく15年前に外壁だけですが国の重要文化財に指定されているので、
当分の間は取り壊されないと思われます。
投稿: 名前 | 2009年1月27日 (火) 00時35分