愛と感動の抹消上申!
以下は、2009年の『ドライバー』3-20号に書いた原稿に若干加筆等したもの。
「せっかく不起訴になったのに、警察は〝文句があるなら裁判でも何でもやれ〟と、どうしても違反点数を消さない!」
そんなトラブルが全国で起こっている。
粘り強く交渉し、しかし空しく追い返される運転者からすれば、点数は〝いったん登録されたが最期、絶対に消えないもの〟のようにさえ思えてくる。
だが、点数の抹消は、じつはできるし、実際している。手続き的には、取り締まりを行った署や隊から運転免許の担当部署(警視庁では運転免許本部長)宛てに「抹消上申」を行う形になっている。
では、具体的にいったいどんな抹消上申が行われているのか。どんな文書をつくっているのか。
東京都の情報公開条例を利用して「交通関係法令違反点数の抹消上申について」なるものを開示請求してみた。
文書は大量にあり、1年分だと手数料が何万円にもなるらしい。そこで、とりあえず2007年の5月分(保存期間の関係からその時点で一番古いもの)を請求し、開示を受けた。
文書は52件、128枚、3840円。ぜんぶ読んだ。墨塗り(非開示)の部分も少しあるが、いや~、おもしろいねぇ。
抹消上申の理由で多かったのは「書式変更」。たとえばこうだ。
抹消すべき理由/上記違反者は…(墨塗り)…ため、東京区検から公判請求事件として書式変更を指示され、交通執行課墨田分室から返戻された。
今後の措置/東京区検に基本送致予定
つまり、略式による罰金ですむケースと思ってキップ処理しようとしたが、正式な裁判のほうへ起訴することになり、書類をつくり直すことになった、それにあわせ点数を抹消したい、というわけだ。「正式裁判だから点数はマケてやる」なんてはずはなく、いったん抹消したのち改めて登録し直すのだろう。
これ、なんかおかしくない? 無免許の点数は19点。前科があってもなくても、また裁判が略式でも正式でも点数は同じだ。なぜ、わざわざ手間をかけ、いったん抹消するのか。
警視庁の元警部補、犀川博正さんは言う。
「運転免許、車庫証明、交通違反、職務質問、それらはことごとく電子データとして蓄積され、犯罪捜査には欠かせない資料となっています。点数を刑事処分と整合性を持たせることにより、データベースとしての利用価値は上がる、そういうことではないでしょうか」
なるほどねぇ。
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「違反不成立」というのもあった。バイクが右折禁止場所を右折したのを、蒲田警察署の白バイ警察官が取り締まったケースについて…。
後日、同所の規制標識、道路等を確認したところ、歩道橋に設置されている指定方向外進行禁止の標識は、被取扱者(※バイクのライダー)が右折行為をした場所より1本先の道路における指定方向外進行禁止の標識であることが判明した。
後日、現場を確認? 普通はそんなこと、しないはず。
文書をよく見ると、取り締まりは4月30日、抹消上申は5月18日。日が開いている。はは~、ライダーが反則金を払わず、そこで警察は否認事件として書類をつくるため現場を調べ、違反不成立がわかったのかな? もしもそのライダーが「捕まっちゃったらしょーがない」と反則金を払ってしまったら、点数は抹消されることなく終わったんじゃないか。
あれこれ想像しつつ、興味深く文書を読んでいったところ、52件の最後の1件で私は「ええっ!?」となった。
石神井署の警察官が「交通公園入口に通じ、行き止まりの形態をなしており、公安委員会の規制標識は設置されていない」場所で、ある車両(四輪と思われる)に、「路側帯設置場所における法定方法に従わない放置駐車違反」で標章(黄色い駐禁ステッカー)を貼った。路側帯がある場所では、左側に0・75mの余地を空けて駐車しなければならない。駐車禁止の標識はなくても、左側に寄せて駐車すれば違反になるのだ。
間もなく運転者が署に出頭し、警察官は違反キップを切った。「行き止まりの形態」の道路で、そんな杓子定規なことで……。運転者は納得いかず、警察を呪ったのではないか。けど、違反は違反、キップを切るのは違法ではない。抹消上申でもこう書かれている。
「違反は成立し、取り締まりについての違法性はない」
ところが、そのあとに「しかし…」と続くのである。
しかし、合法となる0・75mの余地を残して駐車した場合は、道路中央に車両が寄った場合の危険性、妨害性から判断し、取締りの妥当性・公平性を欠くものである…(中略)…是正措置を行い違反者の権利回復を図りたい。
ええ~っ!? 違反自体が成立し、かつ、いったんキップを切ってしまったら、「危険性、妨害性」「妥当性・公平性」などおかまいなしに「違反は違反」と押しとおすのが、警察の通常のやり方といえる。運転者が行政不服審査法にもとづく不服申し立てをしても、裁判に訴えても、必ず負ける。
「取り締まりにも点数登録にもなんら違法性はない」
とされてしまうのだ。
それなのに、あぁ、それなのに、「危険性、妨害性」の観点から「妥当性・公平性」を欠くから「権利回復を図りたい」と、石神井署の交通執行課担当係長(警部補)は取り締まりの3日後に署長に報告し、そのさらに3日後、署長は運転免許本部長に「違反点数の抹消を願いたい」と上申したのである。
なんとフェアな!! 私は驚愕し、大いに感動した!!
前出の犀川さんは言う。
「取り締まりの件数ばかり競っている限り、悪質危険な違反の取り締まりに努めようとするマジメな警察官は、常に不利な立場に置かれます。このような状態では交通警察官の士気は上がるはずもなく、市民の期待に応えることができません。限られた警察力で最大の効果を挙げるには、市民の理解を得ることが不可欠。そのことに気づく警察官が現れたのでしょう」
石神井署のその警部補は、そうとうに有能で、誇りをもってバリバリ仕事し、部下からの人望も厚いにちがいない。ぜひそうであってほしい。3840円は痛い出費だったが、いや~、良いものを見せてもらいましたっ!
※2019年8月12日追記: このドライバーの記事のあとにどこかで書いたこと、このブログ記事にも載せるのをすっかり忘れていた。たまに思い出しながら忘れていた。
感動の抹消上申の相手は、たとえば自民党の大臣の坊ちゃんだとか、大いに考えられる。どこの馬の骨とも知れない一般人だったら、石神井署はこんなことをしなかったかも。そこは分からない。
だが! 「危険性、妨害性」「妥当性・公平性」「権利回復」などの文言を理由に点数の抹消上申をした事実がある、そこが大事なのだ。心から感動したいと思う。めっちゃ誉めてあげたいと思う。警部補と一杯飲みたい。 8月22日20時00分現在
位~
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コメント
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「じつはズルイもみ消しだった」という可能性も、おっしゃるとおり、ないわけじゃない…。
しかしっ! たとえそうだとしても、
「危険性、妨害性」の観点から
「妥当性・公平性」を欠くから
「権利回復を図りたい」
こういうことを、つまり通常の取締りでは考えられないことを、公文書に書いた! つーところがスゴイぞと私は思うわけです。
ここはひとつ、ズルイもみ消しかも、などと疑わず、素直に警察官を讃え、同様の観点・理由からの点数抹消が今後スムーズに行われるよう、応援したいです。
とはいえ、傍0号証さんのように思う人はたくさんおいでかも。説明があるほうが良いですよね。どうしようかな、と思ってはいたんですよ。適切な突っ込みをありがとうございます。
ちなみに、当ブログにアップしたのは原稿であり、『ドライバー』の誌面では、そのへん少し修正したかと記憶します。
投稿: 今井亮一 | 2009年8月23日 (日) 22時28分
こんばんは。
>なんとフェアな!!
全くの想像ですが、本件は、
例えば今度の選挙で失職するセンセイが
上のほうに口利きした----つまりは全くのアンフェアな
可能性があるような、、、
投稿: 傍0号証 | 2009年8月22日 (土) 23時57分