超過78キロで懲役6月って!
7月からのニュースを飛び飛びで読んでる。
以下、9月7日付け朝日新聞。太字は今井。
「高性能車やめる」 東名178キロ走行の社長、刑猶予
時速178キロで東名高速を走行したとして、道交法違反(速度超過)の罪に問われた岐阜市の会社社長の男(40)の判決公判が7日、岐阜地裁であり、多田尚史裁判官は懲役6カ月執行猶予2年を言い渡した。社長は「二度と速度違反をしないため、高性能車は必要ない」と愛車の売却を誓った。
速度違反は、法定速度を高速道で40キロ(一般道は30キロ)上回ると、刑事罰の対象になる。罰金刑が多く、懲役刑は珍しい。
判決などによると、社長は5月、静岡県熱海市での同窓会に出るため岐阜市を出発。東名高速で工事渋滞を抜けた直後、静岡市の自動速度取り締まり装置で法定速度を78キロ上回る違反を記録された。
車は、日産GT―Rで「日本屈指のスポーツカー」(弁護側)。多田裁判官に「いい車だと安定して走るので、気づかないのか」と聞かれ、「会社のバンとは比較にならない。瞬時にスピードが上がる」などと社長。「今後は時間に余裕を持って安全運転を心がける」と頭を下げた。(贄川俊)
非常に興味深い。こういうのを報じてくれるのはありがたい。
超過78キロ。
東京簡裁だと、略式による罰金10万円で済む。
東京地裁だと?
いや、東京地裁の公判廷へ出てくる速度違反は、超過80キロ以上のみ。ま、厳密には、超過80キロ未満で否認で、いったんは東京簡裁へ起訴され、普通はそのまま簡裁の公判廷で処理されるところ、東京地裁へ移送になったとか、例外的なケースもたまにないわけじゃないが。
東京地裁の場合、超過80キロ台でも懲役3月が鉄板の相場だ。ところが――現場は「静岡市」、なぜ岐阜地裁だったのか、という点はさておいて――岐阜地裁の判決は、78キロ超過なのに、速度違反の罰則の上限である懲役6月。へぇ~
まぁね、東京簡裁・地裁の場合、大幅な速度超過のほとんどは首都高速であり、制限速度が低い。超過78キロといっても、測定値は158キロだったり138キロだったりする。いわば絶対速度が低い。
制限80キロで178キロ出せば、超過98キロ。懲役4月が相場。
だから、絶対速度が178キロで超過速度が78キロで、岐阜地裁は懲役6月、へぇ~ と感じるのだ。
速度違反の量刑相場は地方によって差があるようだ、ということは分かっていて、拙著にはそう書いてる。しかし、地方の検察庁・裁判所の具体的な運用は、東京の場合ほどには分からない。情報が多くない。
なわけで、こういう報道はありがたいのだ。
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そのほか、例によってつまらないことを言っておこう。
「速度違反は、法定速度を高速道で40キロ(一般道は30キロ)上回ると、刑事罰の対象になる」
これ、ほんとは正しくない。
速度違反はすべて刑事罰の対象だ。
15キロ超過でも、「違反は事実か。事実として処罰すべきか。すべきとしてどれくらいの罰が適当か」を、刑事訴訟法に定められた刑事手続きにより、まず検察官に、場合によっては裁判官に、運転者の説明等もよく聞いてもらい、判断してもらうことができる。
ただ、高速道路等における超過40キロ未満(一般道では30キロ未満)については、「聞いてもらいたいことも、判断してもらいたいこともない。一律に決められた額のカネを払ってソク終えたい」という運転者は、「反則金」という特別なペナルティ(一種の行政罰)を払い、刑事罰を逃れることができるのだ。
「刑事罰の対象になる」というのは、イコール、不起訴や無罪があるってこと。だけど、反則金の納付書を交付された運転者は、毎年100%近くが反則金を払い、刑事罰を逃れている、刑事罰の対象になっていない。
なーんてことを、長々書く余裕もないし、書いてもたぶん新聞の読者は誰も読まない(理解できない)ので、本件記事のような表現になるのだろう。それはよくわかる気がする。
それから、
「いい車だと安定して走るので、気づかないのか」
これは皮肉で言ったんだょね。「いい車なので178キロ出てることに気づきませんでした。せいぜい制限速度をちょい超えるくらいで走ってるつもりでした」なんてバカがいるはずがない。
あと、
「今後は時間に余裕を持って安全運転を心がける」
それに対して岐阜地裁の多田尚史裁判官がどう言ったか知らないが、東京地裁の菱田泰信裁判官や山口雅髙裁判官なんかだと、
「時間に余裕がなければ、またスピード違反するんですか?」
と突っ込むんじゃないか。
「時間に余裕があるかないか、そんなのはあなたの勝手な都合でしょ。自分の勝手な都合で、こういう違反をするかどうか決めるんですか?」
と。
しかも、
「愛車の売却を誓った」
って…。前回の公判で、軽々178キロも出る車、出せてしまう車を、今後も所有し続けるのか、と検察官、裁判官から突っ込まれ、今回、弁論再開、車の売却の領収証書などを証拠請求、検察官は同意、改めて結審し…というのが、東京地裁における懲役求刑のスピード違反裁判の、いちおうお約束といえる。
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とマニアな私はごちゃごちゃ言うけど、一般の方からすれば、犯行車両が「日産GT―R」だと朝日新聞はなぜ書いたのか、そっちに仰天かもしれない。
う~ん、どうなんだろ。「いい車だと安定して走るので…」「会社のバンとは比較にならない。瞬時にスピードが上がる」と、高性能をアピールすることで差し引きチャラ…とか? う~ん。
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