またパーメの不正使用
2007年11月5日、当ブログでこんな記事を紹介した。
パーキングメーターを誤作動させた運転手書類送検
パーキングメーターを誤作動させてトラックを駐車し続けたとして警視庁交通捜査課は2日、偽計業務妨害の疑いで、佐川急便とヤマト運輸の運転手計7人を書類送検した。
2007年11月2日付け産経ニュースの一部だ。
そしてつい先日、2009年9月30日付けの読売新聞に同じような記事がある、との情報をいただいた。その記事の冒頭はこうだ。
東京都内の貨物車用パーキングメーターを不正に操作して同じ場所に長時間駐車したとして、警視庁は30日、大手運送会社「佐川急便」の26歳と48歳の運転手の男2人を偽計業務妨害の疑いで書類送検した。
え~っ。
2008年10月20日発売の『ドライバー』の、長期連載「覆面パトは二度サイレンを鳴らす」に、私はこんな記事を書いた。以下、編集部の許可を得て…。
※ 『ドライバー』は毎月5日、20日発売であるところ、私の連載は20日発売号。
driver (ドライバー) 2009年 11/20号 [雑誌] 販売元:八重洲出版 |
「パーキングメーターを誤作動させてトラックを駐車し続けたとして、警視庁交通捜査課は、偽計業務妨害の疑いで大手運送会社2社の運転手7人を書類送検した」
そんなニュースを昨年(※2007年)11月2日、マスコミ各社が一斉に報じた。私は「はあ?」と首をひねった。
運転手らはパーキングメーター(パーメ)の白線内に料金300円を払ってトラックを駐車、規定の60分間が過ぎるころに「特殊な方法」を使ってパーメのセンサーを誤作動させ、いったんトラックが白線内から出たように見せかけ、また料金300円を払って駐車、ということを続けたんだそうだ。つまり、料金は払い続けていたわけだ。
「特殊な方法」については、パーメの車両感知センサーのところになにかをかざすとパーメは車両を認識しなくなる、とかいう“裏技”が昔からささやかれてた。それが今回、利用されたようだ。
裏技はマズイとしても、料金は払い続けてるわけで、運転手らは実質的に悪いことはしてないんじゃないか。パーメは、いったん白線内から出て、再び白線内に入って駐車する、という形の継続駐車は、まったく合法なのだから。
運転手らは、パーメを休みなく利用してくれたお得意さんといえる。感謝の粗品を……いや、粗品は裏技と差し引きでチャラとしても、「業務妨害」って、いったい誰のどんな業務をどう妨害したっていうのか。「誰の?」についてはこう報じられていた。
「メーターを管理する財団法人『東京交通安全協会』の業務を妨害した疑い」
なるほど、都内のパーメの管理は交通安全協会(安協)に独占委託されている(※現在は一部他業者が入っている)。パーメにたまった100円玉の回収などの業務で、安協は毎年何十億円か稼いでる。それは事実だが、じゃあ、その業務をどう妨害したのか。しかし、
「パーメでインチキした連中が捕まったぞ!」
という印象だけを与えて、報道は終わった。私は「はあ?」と首をひねったまま、日々の雑事に追われ、忘れ去ってしまった。
ところが! それから11カ月近くたった今年(※2008年)9月末、『月刊交通』(東京法令出版)の9月号を見て「うわおっ!」となった。
ちなみに『月刊交通』とは、警察内部向けの、A5サイズで100ページ程度、表紙以外ぜんぶモノクロなのに820円もする月刊誌だ。毎月末にその月の号が送られてくるところも、世間離れしてる(笑)。でも、たまに参考になる記事が載るので、私は10年以上前から定期購読してるのだ。
同誌には、「こういう難しい交通事件をこう検挙した」というレポート記事がときどき載る。そんなレポートの1つとして9月号に、「大手運送会社運転手らによる偽計業務妨害(パーキング・メーター不正使用)事件の検挙について」という記事があったのだ!
書き手は警視庁の交通捜査課の職員氏。「……不正利用していた悪質・巧妙な事件であり、この種事案を全国で初めて偽計業務妨害罪で検挙した経緯について紹介する」と始まっていた。
捜査の端緒は、「大手運送会社の車両が荷捌きスペースとして1日中(パーメに)駐車している。何か違反にならないのか」という匿名の情報提供だそうだ。
で、警察はどう動いたか。これがスゴイんだわ。8ページにわたるレポートから一部拾ってみよう。
「同情報に基づき、事案の概要を把握するため現場確認」を行ったうえで、パーメはS署管内だったのでS署に「拠点を置き、同署、交通捜査課、駐車対策課による共同捜査本部を設置」。そして、「付近に林立するビルの実査、ビデオ等装備資器材の設置箇所の選定、ビル管理者等に対する協力要請を実施し、数カ所にビデオ等を設置し、犯行状況の撮影」を行い、「捜査員の張り込みによる被疑者の特定、犯行状況の現認等」を行い、「使用車両に対する尾行により、営業所の割出しを」行い、「営業所付近における張り込みによる使用車両の入出庫状況、使用車両の追尾による営業所から現場までの走行経路、現場における駐車場所の選別状況等の確認を実施した」。
読みながら、私はわくわくしてきた。なんだか国際テロの重要犯人を追い詰めていくようで。
偽計業務妨害の成立についてはこうだ。東京地検や関係課と検討、協議した結果、パーメの設置趣旨は「駐車可能な場所に同一の車両が引き続き長時間駐車しないよう制限することで駐車の回転率を高め、最小限必要な駐車需要に応じることにより、その地域における交通の安全と円滑を図ること」にあり、したがってパーメを誤作動させることは「設置者が意図する正常なパーキング業務を妨害することにほかならないことから、たとえ料金を払っていたとしても、偽計業務妨害罪の正否に影響を及ぼさない」「との結論に至った」。
どうもなんだかムリヤリ感があるように思えるが、とにかくそういう結論に至ったんだという。
そうして、「A社とB社の捜索差押えを実施」、犯行車両や運行日誌、タコチャートなど「多数を押収」し、「中でも悪質な6車両7名を事件被疑者として検挙」、2007年11月に地検へ送致したのだという。その発表をマスコミは一斉に報道したわけだね。
『月刊交通』のこのレポートを私は電車内で読んだ。「はあ?」をとおりこし、びっくり仰天。思わず呻き声を漏らしたかもしれない。恥ずかしいよぅ(笑)。
だってさ、地検や関係課と検討、協議してようやく「…との結論に至った」というような容疑で、いきなり運転者らを検挙するって、ひどくない? そんなもの、
「こっちで検討、協議したらこういう結論に至ったんで、今後はヤメなさい。次は検挙するよ」
と、運転手および会社に対し、まず警告すべきじゃないの?
ところがレポートは、そんな話は一切なく、「各報道機関にあっては……特番を組むなど、テレビ・新聞等で大きく報道し、社会的反響も大きく、悪質な違反の再発防止に寄与するなど警察威信の高揚に多大な効果があった」と結ばれているのだった。
それってつまり、警告ですむものを「警察威信の高揚」のために利用したってことにならない? 「炎天下における長時間の張り込みや尾行等」をやらされていた現場警察官たちは、どう思ってたのか。どう思っても「警察威信の高揚」に酔う上司には、なにも言えなかったんだろうか。
その後、運転者らは略式起訴されたという。不服があれば東京簡裁の法廷へ出てくるはず。私は東京簡裁の開廷予定を毎日チェックしてるが、偽計業務妨害の罪名はなかった。罰金を払って終わったのだろう。
記事終わり
その意味で、今回は警告なしで検挙、送致されても仕方ないといえる。
しかしそれにしても、佐川急便は運転手(セールスドライバー)らに、パーメでそれをやっちゃダメょ、犯罪になるょと、指導してなかったんだろうか。当初は指導を徹底したが、月日が経って薄れたんだろうか。
あるいは、薄れてはいなかったが、運転手らとしては日々の労働の負担を少しでも軽くするため、つい…ということなんだろうか。
こういうニュースを読むとき、駐車違反はどれも必ず悪いこと、なくすべきこと、ではないことは念頭におかなければならない。駐禁取締りは地方自治体のハッキリと収益事業であり、そこにおいて駐車禁止規制は、カネを得るための理由付けに当たる。
もちろん、その規制により迷惑駐車が違法とされることもある。が、だからといって迷惑駐車がソク取締りを受けるとは限らない。取締りはあくまで収益事業なのである。
交通違反でつかまっても困らない本 (ワニ文庫) 著者:今井 亮一 |
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