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2017年6月14日 (水)

無罪確実で当たり散らす検察官

「注目の判決は11月1日(月)11時と決め、14時閉廷。まだ無罪を傍聴したことがない方は、チャンスかも」
 と書いたのは、2010年10月14日号のメルマガである。判決はずばり無罪だった。何人かの方から感謝の言葉をいただいたっけ。

 その無罪、もちろんメルマガで報告し、同年11月か12月発売の車雑誌『ドライバー』でもレポートした。
 検察は、いったん起訴したからには──動かしがたい証拠とともに真犯人が現れちゃったとか極めて異例で遺憾なことでもない限り──無罪が明らかでも七転八倒、有罪にしようと頑張り抜く、ある意味あっぱれ! な組織である、そのことが分かりやすく分かるケースだ。
 以下、『ドライバー』の原稿に若干加筆等して掲載する。

 「自動車運転過失致死」つまり死亡事故の裁判が東京簡裁(武内晃裁判官)であった。
 俺はもう8年間ほど東京簡裁に張りついているが、簡裁で死亡事故はかなり珍しい。
 被告人は49歳のトラック運転手。起訴状はこんなふうだった。

「片側3車線の信号交差点で、被告人は必要な注意を怠って漫然約15キロの速度で右折。対向車線の第3車線(中央寄りの車線)を直進してきたバイク(普通自動二輪)に自車前部を衝突させた。
 バイクは転倒、滑走し、バイクから見て左側に停車中のクルマに衝突。運転していた25歳男性は両側血気胸(けっききょう)、骨盤骨折、頭蓋骨骨折などの傷害を負い、胸腔内損傷と頭蓋内損傷で死亡…」

 うわぁ、たいへんな事故があったんだな。それにしても、バイクは何キロ出してたんだ?
 裁判官が、起訴状の内容についてどこか違う点はあるか、被告人に尋ねた。

被告人 「え~、ございます。私は過失はないという判断で…過失はないと思います、はい、過失がないので争います」

 おおっ、真っ向否認である!

被告人 「私、信号が黄色から矢印の右折にしたがって右折を…前方、見てましたし、毎日運転してるので、ある程度、確認するのは当たり前になってる…急発進とか絶対してません…」

 裁判官は弁護人の意見を求めた。

弁護人 「被告人は何ら注意義務を怠っておりません。事故の原因はもっぱら、自動二輪車が信号を無視し、制限速度をはるかに超える速度で…」

 被告人が信号無視をしたなら、それは当然、起訴状に記載される。しかし検察官は、被告人の過失は「必要な注意を怠った」だけと言っていた。バイクのほうが本当に信号無視だったようだ。しかもかなりのスピード…。それでなぜ被告人は起訴されたのか。
 はは~、読めたぞ。普通に起訴されたのではなく、これは〝略式経由〟なのだな?

「クルマとバイクが衝突してバイクの側が死んだなら、クルマの側を処罰しなければ。けど、過失はもっぱらバイクの側にありそう。クルマの側に禁錮刑は科せない。略式の裁判で軽い罰金を科しておけば、香典と思って払うだろう。それで一件落着だ」

 警察・検察はそう考え、被告人はよくわからないまま略式に応じて罰金の支払い命令を受け、「自分に落ち度はないのに、なんで罰金なの。納得いかない」と、正式裁判でのやり直しを求めたんだな。
 この読みは当たっていたと、あとで確認できた。

 さぁ、正式裁判はどう展開するのか。しっかり傍聴してやろうと俺は気合いを入れた。だが、裁判官は言った。

裁判官 「事案にかんがみて、この事件については東京地裁で審理するのが相当と認めて…」

 簡裁から地裁へ移送することになり、その日は10分足らずで終わってしまった。裁判所法の規定により地裁へ移送となることはたまにある。

 それから3カ月後、東京地裁(鹿野伸二裁判官)の開廷表にこの被告人氏名を見つけた。地裁での審理がやっと始まったのだ。しかしその日は傍聴できなかった。
 さらに1カ月後、また審理があり、ようやく傍聴できた。

裁判官 「え~、今日は証拠調べを終えて双方のご意見を…」

 あらら、真っ向否認だから、実況見分をやった警察官や目撃者を尋問したり、けっこう長くかかるかと思ってたのに、もうそんな段階なのか。早いね。

 検察官は3人もいた。
 裁判官席に近いほうから順に、いかにも新人風の若者、人相の悪いメタボ中年、プラス簡裁のときの検察官。
 新人君が起立し、カツレツよく堂々と論告(検察側の最終意見)を述べ始めた。被告人の注意義務についてこんな判例を引用した。

検察官 「特別の事情がない限り、信号にしたがって進行すれば足りる…いちいち徐行運転をして左右の安全まで確認する注意義務はない…」

 うん、そりゃそうだよね。っておいっ、検察官は無罪を求刑するのか?
 そうじゃなかった。その判例は交差道路の車両との衝突についてのものであり、本件は対向車線との衝突だから関係ない、ゆえに被告人には注意義務があったと、有罪主張なのである。

 俺は傍聴席で思った。んなアホな話があるかい! 主信号は赤になり、被告人は右折矢印の信号にしたがって右折を開始したんだよ。バイクは実質、交差道路から来たといえる。つまり検察官は、無罪の判例を引用して有罪の論告をしているに等しい! こんな無残な論告を新人君に堂々と述べさせるって、ひどいなぁ!

 求刑は罰金30万円だった。
 交通事故の法定刑は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」だ。死亡事故で30万円はめっちゃ安い。検察も自信がないんだな?
 亡くなった25歳男性はかわいそうだが、これはムチャな運転による自爆事故というべきじゃないか。無罪かもしれんぞ。

 翌月、判決。
 人相の悪い検察官は、おそろしくご機嫌斜めだった。簡裁のときの検察官に対し、前回とは違う席に座れとえっらそうに鼻息で命じ、新人君に対しては、「なんでわかんねーんだよ!」と押し殺した声で憎々しげに2度ほど言った。あんなふうだから人相が悪くなっていくんだわ(笑)。
 間もなく裁判官が登壇し、判決を言い渡した。

裁判官 「主文、被告人は無罪」

 やっぱ無罪だっ! 要するに、こういう理由だった。

裁判官 「被告人の注意義務については、交差点出口の横断歩道に横断し終えてない歩行者等がいるか、右折した先の道路の状況はどうか、そういったことを確認すれば足りるのである。
 対向車線は、第1車線にトラックがハザードランプを点けて駐車しており、第2車線にはタクシーが信号待ちで停車している。その状態で、第3車線を時速約70キロのバイクが赤信号を無視して突っ込んでくることまで、注視、確認する義務はない。
 相手の方が亡くなったのは残念ですが、あなたに刑事上の過失はないと判断しました」

 言い渡しは10分ちょいで終わった。長い理由を必要としない、ごくシンプルな無罪なのだった。
 そんなことは検察側だって重々承知だったろう。被告人が略式に応じなければ不起訴だったろう。
 しかぁし! 裁判になったからには、あくまで有罪を主張する。無残な論告を新人君に読ませ、判決は無罪に決まってるから不機嫌になって当たり散らす。サイテーだ。
 ちなみにこの無罪判決は報道されていない。

 裁判が公開なのは、こういうシーンを国民に見張らせるためだ。そして裁判傍聴ジャーナリストの役割は、日々見張って広く伝えること。重大な責任に身が震える思いです…って震えはしないけどさ(笑)。

 この話、書けばもっと長くなるけど、今夜はここまで。裁判傍聴ジャーナリストとしてのメルマガ「裁判傍聴バカ一代」の、次号に着手しなければ。週4号の発行なので、大変なのですよっ。
 明日は、高橋ユキさんから教わった、電車内で痴漢して線路へ飛び降り逃走した事件を傍聴予定。じゃねっ。

 ←6月14日23時00分現在、週間INが180で1位~。happy01 

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