駐車監視員制度、お祭りの初日!
いま、『ラジオライフ』の原稿を書いている。ネタは自転車取締りと自転車講習の最新データだ。
じつは警察庁は2006年4月、自転車取締りを強化するよう全国都道府県警察に通達を発出している。2006年といえば、その6月1日に警察庁は駐車取締りの民間委託をスタートさせている。興味深い。
当時、警察庁は何と言っていたのか、私が過去に書いた原稿を探した。そしたら、なかなか面白い記事を発見した。
以下は、2006年7月発売の『ドライバー』に書いた記事だ。一部加筆等する。12年前、そんなことがあったのだ。懐かしい。
たぶん私の出番が増えるんだろう、とはぼんやり予想していた。4月ころから雑誌、新聞のインタビュー、原稿依頼が多くなった。5月に入ると、ラジオ、テレビからの出演依頼が増えてきた。それは日を追うにつれ激しくなった。
やがて、予想をはるかに超え、もうひっきりなしになった。スケジュールをやりくりするだけで精一杯。自分がいまどの番組のインタビューを受けているのか、ほとんどわからなくなる始末だった。
でも、私のコメントの内容は、いつも同じだ。それは、本誌やブログなどに書いてきたことだ。奇をてらって事実や認識に反することを言うわけにはいかない。不安になり、いくつかの番組スタッフに尋ねてみた。
「あのう、私、すでにいろんな番組にお答えしてまして、同じことしか言えないんですけど、いいんでしょうか」
「ぜんぜんOKですよ。こういうことでコメントできるのは、今井さんしかないんですよ」
そ、そうなのか? うむぅ…。そしてついに6月1日。駐車違反取り締まりの民間委託の、いよいよ初日がきたのだよぉ!
朝5時50分、お迎えのハイヤーに乗車。6時すぎ、道端に停まってもらい、車内からFM東京に携帯電話で生出演。赤坂に着き、TBSラジオに生出演。同じハイヤーで渋谷警察署前へ。早く着いたので、向かいの立ち食いそば屋で、きつねそば、350円。これが、夜帰宅するまでの唯一の食事になろうとは、そのときの私は知るよしもなかった…。
8時をすぎ、マスコミ各社が集まり始めた。渋谷署の正面玄関前で、担当警察官が「お願い事」を伝えた。
「勤務中の監視員へのインタビュー取材はお断りします。車道には出ないでください。皆さんが轢かれてしまうとニュースになってしまう。歩行者、自転車にはご注意を」
いよいよ始まるのだ!集まったマスコミ陣のなかで、私がいちばんわくわく興奮していたと思う。
だぁって、警察はこの種の制度にしたいと90年、93年、94年に大きく発表していたのだ。私は94年に『週刊金曜日』に記事を書いてからずっと、機会あるたびに批判してきた。それが、ようやくこんな形で華々しくスタートするのだ。かわいい子どもが小学校に入学するような、なんともいえない興奮を私は感じるのだった。8時36分ころ、おおう! 渋谷署の正面玄関からぞろぞろ出てきたよ、駐車監視員(以下「監視員」)が!
緑を基調とした制服に、携帯端末と携帯プリンターなどを装備して。数は15ユニット、30人か。マスコミ各社が一斉に撮影。私も昨年買ったデジカメで撮りまくったよぅ。監視員たちはすぐに2手に分かれ、さらにまた分かれた。私は道玄坂方向のユニットを追った。歩く、歩く、すたすた歩いていく。あちこちに違法駐車があるが、目もくれない。取り締まり開始場所が決まってるんだろうか。
109(マルキュー)の前で、3ユニットが止まった。携帯端末をなにやらいじっている。資格者証のデータを入力している。出発前にやっとけばよさそうなのに…。
茶髪にサングラスのおじさんが通りかかり「こんなの愛国心じゃねえ!」と、しゃがれ声で監視員らに怒鳴った。道玄坂を上り、途中の信号のところでまた止まった。ここがスタート場所か?
だが、なかなか出発しない。リーダーらしき若めの監視員が、携帯電話でしきりに連絡をとっている。「いま、監視員といっしょに××しておりまして」と聞こえた。目つきが冷酷そうで、他の監視員とは明かに感じが違う。元警察官? だとすれば、若いのになんで退職したのか。ヤバイことをやったのか。「1回落として…」とも聞こえた。電源を落とせということらしい。どうも携帯端末が不具合のようだ。若いカップル(ラブホテル帰り?)が「あっ、あれだ、駐車監視員だ」と通りすぎる。
9時10分、1ユニットずつに分かれ、動き出した。私は、怖い目つきの監視員がいるユニットを追った。
しかし、ぜんぜん確認事務(新しい取り締まり)を行わない。歩道上にでーんと置かれたジャマな大型スクータも素通り。そして結局、渋谷署へ戻ってしまった。他にも戻るユニットがあった。やっぱりどうも携帯端末が不具合らしい。なんだよ。他の記者らとともに玄関前でうろうろしてると、いつの間にか、そばに1台の乗用車が路上駐車していた。駐停車禁止の標識のすぐ下。路面は赤くペイントされている。取り締まってくださいと言わんばかり。ヤラセか? などと記者らと話すうち、1ユニット出てきた。おうっ、やっと確認事務を見られるよ!
けれど、監視員が写真を撮ってデータを入力している間に、ドライバーが戻ってきた。新しい取り締まりは、その場でプリントアウトした確認標章(新しいステッカー)が貼りつけられる前にドライバーが戻ればセーフなのだ。
それからそのユニットは、明治通りを広尾方向へ歩き始めた。やっとまともな巡回活動が始まるのか。テレビが2局に、紙媒体の記者、正体不明の男が2人と私、合計10人くらいがくっついて進む。
銀行の前に、ハザードを点けたタクシーが駐車していた。運転手の姿は見えないがすぐ戻ってくるだろう。ところがそのタクシーに対し、監視員は確認事務を始めた。
「運転者が車両を離れて直ちに運転できない状態の違法駐車」を「放置車両」といい、確認事務の対象になるのだが、それにしても、こんなタクシーを? とくに迷惑にはなってないのに。私は思った、「見境ねーな!」と。
当然、運転手がすぐに戻ってきてタクシーは発車。確認事務はまた空振りだ。
まあね、民間が取り締まるのだから、法が決めたとおり見境なくやるのが正しい、とはわかる。個々の業者、監視員の恣意が入っては困る。けど、そうであれば、そもそもの規制は、場所ごとの迷惑性を十分に考慮するなど、よほど合理的でなければならない。
なのに今回の新制度は、一部の例外を除いて、従来の不合理な規制のまま「時間の長短に関係なく取り締まる。取り締まったらかならずカネ(反則金または放置違反金)を徴収する」という制度だ。それで見境なく取り締まったのでは、ドライバーたちの憎悪がたまるばかりではないのか。さらに歩いていくと、道端にタクシーが。あれ、さっきのタクシーでは? と思う間もなく運転手が降りてきて、監視員に食いついた。
「銀行の1分でもダメですか! ほんの1分でも! やりすぎだよ!」
殴りかからんばかりの勢いだった。
監視員はみなし公務員とされ、殴れば公務執行妨害だ。初日にすごいシーンを撮れるぞ。テレビカメラが集まった。もちろん私もデジカメを向けた。
タクシー運転手は気圧されたか、殴ることなく去った。そのあとも監視員は、宅配のトラック、納品の1BOX、工事車両、ダスキンの軽自動車など、運転者が乗ってないとわかると見境なく確認事務を始めた。が、みな運転者が数分で戻るため、ぜんぶ空振りのまま、渋谷署へ戻ってしまった。
午後に1件だけ、高級そうなBMWに確認標章を取り付けるところを目撃できた。間もなく戻ってきた運転者は、子どもをピアノ教室へ送った若い奥さんだった。複数のテレビカメラの前でコメントを求められ、おどろいていた。
私はその日、たしか6つのテレビ番組のインタビューに応じ、途中で少し渋谷を離れてニッポン放送のラジオに生出演。夜はNHKラジオに携帯電話でコメントした。
気温は30度を超え、今年初めての夏日だという6月1日はこうして終わった。女房殿から言われた。
「あんた、痩せたわね」
仕方ないよ。これを皮切りに交通社会は大きく変わる。その〝お祭り〟の初日なのだから。
制度スタートの前に私は、駐車監視員資格者講習を受け考査に合格、所定の手続きを経て駐車監視員資格者証を取っていた。
インタビューでスタジオで見せまくった。「えぇい、頭が高い、控えおろう、この資格者証が目に入らぬか!」という調子で、というのはウソですけど(笑)。
自転車取締り、スピード取締りもいずれ民間委託されるだろう。その資格者証も取らねば。大変だっ。
※画像は、ナンバーを隠した駐車中のバイクの確認標章(黄色い駐禁ステッカー)を取り付けたという珍しい写真。読者氏からの頂き物だ。
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