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2018年11月27日 (火)

職務質問の実績を上げるため証拠を変造した事件

 「銃砲刀剣類所持等取締法違反」か「軽犯罪法違反」か、刃物の刃体長で線引きがある。その線引きゆえに起こった事件について、メルマガ第273号から、だいぶ縮める等して転載しよう。
 2010年10月13日(水)に傍聴した事件だ。

 

 ということで、あわてて「証拠隠滅、虚偽有印公文書作成」の東京地裁713号法廷(52席)へ。

 鬼澤友直裁判長、井戸俊一右陪席裁判官、棚橋知子左陪席裁判官、の合議だ。
 被告人は非身柄で弁護人の横に座り、固く目を閉じてうつむいてる。
 検察官の冒頭陳述が始まるところだった。

 犯行当時(2008年11月)、被告人は警視庁蒲田署、地域第三係の統括係長(警部補)だった。
 部下2人がパトカーでパトロール中、ナンバー灯が切れた車を発見、職務質問をかけた。車内を検索すると、ハンドル脇の小物入れにカッターナイフがあった。

 刃体長(はたいちょう)6cm以上は銃刀法の違反。未満は軽犯罪法の違反。どうしよう、2人のうち1人の警察官が、署にいる被告人に連絡した。

 

 じつはそのとき職務質問強調(強化?)月間だった。銃刀法違反は、地域課が捕まえても処理は生活安全課(生安)の扱いになる。生安が立件しなければ、つまり「たかがカッターじゃないか」と生安が不立件にすれば、地域課の警察官の実績にならない。
 しかし軽犯罪法違反(軽犯)なら最初っから地域課の扱いで、実績にできる。

 被告人は「(カッターの刃を)折って持ってこい」と言った。警察官2人は戸惑ったが、指示に従わずに叱責されることを怖れ(それが検察官の言い分)、カッターの刃を折り軽犯で被疑者を蒲田署へ任意同行した。

 その後、軽犯で処理し、ブツ(カッター)の写真を撮って報告書もつくった。
 被疑者は、カッターが車内にあること自体を忘れていたそうで、刃を折られたことにまったく気づかなかった…。

 被告人氏名で検索してもヒットがなかった。「蒲田署」「カッターナイフ」などで検索するとヒットがあった。
 ヒットしたサイトから報道部分(と思しき部分)を抜粋すると、こうだ。

 警視庁は、蒲田署の警部補らが証拠品のカッターナイフを故意に破損するなどしたとして、東京地検に書類送検した。
 証拠隠滅教唆などの疑いで書類送検されたのは、蒲田署地域課の60歳の男性警部補ら4人。
 警視庁によると、2008年11月、警部補の部下2人が東京・大田区の資材置き場で30代の男性に職務質問した際、男性が刃渡り6cm以上のカッターナイフを持っていた。
 2人が警部補に報告したところ、「6cm以上だと銃刀法違反になるから、刃を折って軽犯罪法違反で処理をしろ」と指示を受けたため、カッターの刃を折ったという。
 警部補は、停職3カ月の処分を受け、19日付で依願退職している。

 報道では「証拠隠滅教唆」となっている。
 裁判を傍聴しても、内容的には教唆と思えたが、事件名に「教唆」の2文字はない。

弁護人 「TとF(職質をした部下)は被疑者として取調べを受け、その後…」

被告人 「Tは地域課から刑事課へ…Fは巡査部長に昇任し、昇任配置…」
弁護人 「上司のS警視(当時の地域課長)は?」

被告人 「取調べを受けたと聞いています、犯人隠避で…」

弁護人 「本件で懲戒、依願退職となったのは、あなただけですか?」

被告人 「はい」

 被告人は、41年間の警察人生で43回もの表彰を受けてきたという。
 1回も受けない者もいて、受ける者でも普通は数回なんだそうだ。被告人の43回のうち1回は、職務質問で覚せい剤を検挙するに当たり…。

被告人 「被疑者は隠し持っていた拳銃を7発発砲、私も威嚇射撃を2発して、肩を打って逮捕…」

 ひぇ~、警察官って大変な仕事ですね、頭が下がるっす。別の1回は、

被告人 「暴力団の組長を長きにわたって取調べたところ、上申書で武器庫を書いてくれ、真正拳銃6丁、弾約300発、覚せい剤約2kgを押収…」

 すっごいお手柄じゃん!
 それなのに、実績競争から生まれた事件の罪を一身に負わされ、可哀想! というものを私は感じた。
 ま、こういうのはだいたい1人に全部の罪を重くかぶせて終わる…らしいが。

 

 求刑は懲役1年6月。
 11月17日(水)、その判決公判、傍聴した。傍聴席は、私以外はみんな警察官だったかも。

裁判長 「主文、被告人を懲役2年に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する…」

 加えて、領置調書、写真撮影報告書の虚偽作成部分を没収、さらに訴訟費用は被告人の負担。弁護人は国選だったんだね。

 てか求刑超えってどゆこと!? 判決理由は裁判的にありきたりなことばかり、つまりこういう事件のテンプレートだった。求刑が相場に照らして軽すぎたってことだろうか。
 最後にこう述べた。

裁判長 「あなたが再び犯罪を犯すことはないと思いますけども、一面では仕事熱心のあまりというのも、ないではないですけども、証拠物は刑事司法の根幹をなすものですから、それに手を加えたことの重大性は…」

 

 私は傍聴ノートに、ペンの色を変えて「よっく言うよ!」と書いた。一段高いところから正義ぶって偉そうに言えることが、過去の数々の冤罪に何らの反省もないことの証(あかし)というべきじゃないの?
 東京地裁はめっちゃめちゃ傍聴人が多いけど、そのように傍聴席で思うのは、もしかして私だけ? 近ごろすごく不安に感じ始めている。

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