わし、帰る家がないんや
東京地裁(東京高地簡裁合同庁舎)の庁名板3事件、について2022年11月18日に書いた。
その「1、朱墨事件」の被告人の、今度は議員会館の庁名板に墨汁をかけた事件、の控訴審判決の期日が5月31日(水)13時20分、東京高裁であった。
忙しいんで私はパスしよう、と何度か決意したのち、ええいと思い切り、出かけた。
簡単にご報告しよう。
13時18分の時点で、傍聴席には公務員と思しき主に男たちが10人。
被告人は身柄(拘置所)。白髪のスリムなお年寄りである。現在80歳だっけ。
開廷前、被告人席で刑務官2人に挟まれ、体をねじって背後の弁護人にいろいろ言っていた。
被告人 「な、どないなってんねん…総理大臣…あれどうなっとんの…あんた何もしてへんねや…国選の弁護人はそんなんで金もろて…」
裁判官3人が登壇。伊藤雅人裁判長が被告人に対し、判決を言い渡すから証言台のところに立つようにとうながした。
被告人 「いや判決って」
被告人があれこれ言いだしたが、裁判長は制して言い渡した。
裁判長 「主文。本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中、原判決の刑に満つるまでの分をその刑に算入する」
おお~。原判決の言渡しは今年3月10日、拘留29日、未決10日算入だ。
残る19日分も算入、拘留刑はすべて終えた扱いになったわけだ。
ここまで2カ月と約20日間を経過している。裁判に必要な期間を2カ月間として、残る19日分を算入、ちょぉどええ。
可罰的違法性はある、という判断を示し、言渡しは1分もかからなかったんじゃないかな。その間、被告人はいろいろ勝手にしゃべり続けた。
被告人 「ほな憲法違反、どうなってんの…上告上告って、ちゃんと審理できんのかいな…憲法37条違反、どうなってんねん」
憲法第37条はこうだ。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
② 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③ 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
裁判長 「あなたの権利を告知してるから黙って聞きなさい」
と上訴権の告知を終え、そのあと! びっくりなことを言った。
裁判長 「職権でコウリュウの取消しをしたいと思います。検察官、弁護人…」
双方とも「然るべく」。
ええっ、なにそれ、そんなシーン、初めて見ると思う! 取消しは拘留、勾留、どっち?
言渡しを終えて裁判官3人は退廷。
それから書記官(女性)が被告人のそばへ来て、何か書類を渡した。署名を求めたんだっけ。
審理中に書証(見取り図とか)に丸印を書き入れたりしており、それについて署名を求めることはあるが、本件ではそういうことは一切ない。
なんなの? コウリュウの取消しに関する書類? 上訴権に関係する書類?
被告人に帰住先がないという話になった。
検察官が保護施設への案内の書類を渡す、というシーンはなかった。
被告人 「私はね、今は帰る家がないんですわ…ないんや、大阪の地震でね…」
書記官 「(裁判所からの郵便物を)受け取る場所がないと、上告しても手続きが進まなくなるんです」
被告人 「家、世話してくれたらいい」
書記官 「裁判所はできません。弁護人さんと相談してください」
でかい声を発し続ける被告人に対し、必要十分なことを淡々と粘り強く書記官は説明するのだった。
けど被告人の思うようにはいかない。ついに被告人はこんなことを言った。
被告人 「またもいっかいおんなじような事件起こしていいってことか」
書記官は穏やかに即答した。
書記官 「そんなことないです」
書記官、いいね。裁判所でいちばん偉いのは書記官だと私は思いますとも、ええ。
釈放は、いったん拘置所へ戻ってからになる。
拘置所へのバスが出るまで、裁判所の地下の「仮監」で被告人は待つことになる。
被告人 「わしね、大阪…地震のとき…住むとこがないんや」
などと言い続ける被告人を、刑務官2人が仮監へ連れていくことになった。
そのとき刑務官が、ぎょぎょっ、被告人にカチャカチャと手錠をかけた!
さっき職権で取り消したのは拘留刑であって、身柄の勾留は続くの?
あるいは、刑務官は、つい、癖で、かけちゃいけない手錠をかけちゃったの?
奥のドアへ去る際、被告人は、手錠の手で検察官の机をドーン!と叩き、検察官に対し「しっかりせーよ!」と言った。
厳密には暴行罪が成立すると思うが、誰も何も言わなかった。
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