FTD(Frontotemporal Dementia)と万引き
「谷口恭の「その質問にホンネで答えます」」という無料のメールマガジンに私は登録している。毎号全部読むわけでは到底ないが。
その「2023.10.2【Vol.124】」の「最近の医療情報」はこう始まっている。
9月24日(日)から10月1日(日)までの8日間が何の「週間」であったかをご存知でしょうか。答えは「世界FTD啓発週間」です。
FTDとは「Frontotemporal Dementia」の略だそうだ。
frontal lobe は前頭葉、temporal lobe は側頭葉、Dementiaは認知症。
つまり前頭側頭型認知症。日本では昔「ピック病」と呼ばれた。
谷口恭さんはこう書いている。
FTDに罹患すると、たとえその人がつい最近まで仏のように穏やかな性格の持ち主で万人から愛される高い倫理観を持った人格者であったとしても、他人に見境なく失礼な暴言を吐き、まったく悪びれずに万引きや無銭飲食を繰り返し、ときには暴力や性暴力をふるうこともあります。「認知症」のひとつであるのにもかかわらず、記憶はさほど衰えず、よって家族や周囲の人たちもなかなか認知症だとは疑えません。
以下、私もFTBと略称しよう、フロントテンポラル・ディメンシア。
FTBなんてものを私が初めて知ったのは2015年10月、東京高裁の「窃盗」の控訴審でだった。
万引きの執行猶予中にまた万引きをやり、実刑判決(懲役10月)を受け、どうか再度に執行猶予を、という事件だった。
じつは同年7月、その被告人(50代か60歳前後ぐらいの女性)の、一審の判決を東京簡裁で私は傍聴していた。
そのとき、FTBなんて話はぜんぜん出なかった。
一審が終わる頃か、アメリカへ留学中(大学3年生)の娘が帰国した。
その娘を、控訴審で尋問した。
母親は明らかにおかしいと思った娘は、母親(保釈中)をクレプトマニア方面のクリニックへ連れて行った。
どうも違う、認知症の疑いがあると言われ、そっちの専門医へ。
すると、脳の側頭部に萎縮が見られ、FTBと診断された。
放っておけば必ず万引きをくり返す!
娘は警察に相談。警察官は真剣に相談にのってくれた。
娘は行政の福祉担当にも相談。母親が勝手に外出してしまった場合に備え、近隣の商店をまわって母親の病気のことを伝えた。
なんという行動力、こんな娘はいねえよ! と私は感動した。
万引きを防ぐ態勢が完全に整う前、一審判決から控訴審第1回の前にかけて、母親は3度万引きした。
しかし、商店側はわかってくれて、事件にはならなかった。
「情状に特に酌量すべきものがあるとき」は再度の執行猶予を付すことができる(刑法第25条第2項)。
本件ほどに、特に酌量すべき事情があるケースは、滅多にないよ、そう思えた。
ところが…。
私は当時のメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」で2号にわたりレポートした。
結局、日本の司法は、
犯行を病気のせいにしてはならない。
事情はどうあれ、やったことの責任は取ってもらう(行為責任主義)。
この縛りから逃れられない、逃れたくない、しがみつきたい、ということのようだと傍聴席からはしみじみ感じる。
そんな統治の仕方もあるのだろう。
谷口恭さんによると、「世界FTD啓発週間」のこと、日本の報道は見当たらないそうだ。
メルマガのあのレポート、どこかに再掲したいのだが…。
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