「脅されて仕方なく」は裁判所に通用しない!
オレオレ詐欺。
母さん助けて詐欺。
振り込め詐欺。
いろんなことが言われとりますけどね、「特殊詐欺」が最も適切かな。
と思っていたら、詐欺じゃない手口が流行し始めた。
使い捨ての末端者ばかりが逮捕、起訴される。
起訴状で共犯者らはいつも「氏名不詳者」とされる。特に上位者はほぼ安全圏で日々莫大な金を手にする。
その構造は同じなのだが、近頃流行のやつは違う。
被害者を、騙すんじゃなく、ずばり奪い取る、盗み取るのである。
そんな事件を1日に2件傍聴した。
「建造物侵入、窃盗」 東京地裁 判決
被告人は身柄(拘置所)。黒スーツ。スリムで格好良い若者だが、身のこなしがちょとヤンキー風だ。
これは逮捕報道がある。今年6月の逮捕時、被告人は20歳。
裁判官 「主文。被告人を懲役6年6月に処する。未決勾留日数中110日をその刑に算入する」
6年6月(ろくげつ)、重い。しかも20歳で。何をやったのか。
被告人はAから人を紹介してほしいと言われ、鳶(とび)の仕事かとMを紹介した。
ところが仕事は強盗だった。実行犯の報酬は30~50万。Mはやることにした。知り合いを加えた。 ※Mは結局報酬を受け取っていないという。よくあることだ。
Mら3人(もしや4人?)は台東区上野の貴金属店へ押し入り「しゃべるな、動くな」と包丁を突きつけて脅し、レンチでショーケースを割るなどして腕時計45点、時価合計9944万6千円相当を奪った。
約1億円の腕時計があると知り、上位者(氏名不詳者)が実行犯を送り込んだのだろう。
被告人は、Aの指示を実行犯に伝え、実行犯から腕時計を受け取ってAに渡した。
裁判官 「父親が公判廷で監督を約束した…前科はない…(しかし)主文の刑は免れない…」
被害弁償は一切ないそうだ。
1億円近い被害品は上位の「氏名不詳者」へ渡っている。実行犯や指示役、使い捨ての末端に弁償できるはずもない。
20歳(または21歳になったばかり)で、6年と6月の刑期で堕ちるのだ、刑務所へ。
「住居侵入、窃盗」 東京高裁 判決
被告人は身柄(拘置所)。上下グレーのスエット。30歳前後かな。起立のときピシーッと直立した。
裁判長 「主文。本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中40日をその刑に算入する」
原判決は懲役6年。量刑不当の控訴を、高裁は棄却したのである。
共犯者らと共謀してタワーマンションの高層階へ侵入、腕時計8本、時価合計1億2100万円相当を窃取したんだという。
海外へ流して大儲けするルートがあるらしい。
現金については言及がなかった。腕時計狙いで侵入したようだ。被害者が、高価な腕時計をどこかで自慢したのか。
弁護人は「被告人は計画も実行もしていない。主犯格から脅され、実行犯に指示を伝達したに過ぎない。報酬を受け取っていない」などと主張した。
裁判長はすべてを軽々と一蹴(いっしゅう)。脅された、についてはあっさりこうだった。
裁判長 「脅されたとはいえ、犯行に関与する選択しかなかったとはいえない」
親も殺すとか脅されても、裁判所には通用しないのだ。
被告人は被告人席で、目をパチパチさせながら法壇の裁判長を見上げていた…。
私はオービスの否認裁判を思い出す。
被告人 「深夜に猛然と追ってくる暴走車に恐怖し、思わずアクセルを踏んだらオービスの赤いフラッシュを浴びた。出したくて出したスピードじゃない!」
という否認が、かつて多かった。獲物をオービスに引っかからせて遊ぶ、そんな連中がいたようだ。匿名掲示板に自慢の匿名投稿もあった。
「相手はヤクザだと思った」と述べる被告人に対し、検察官だか裁判官だか、言ったね、「ヤクザだと確認したんですか」。
地図上では付近に警察の官舎があり、そこへ逃げ込もうとは考えなかったのかと問われた被告人もいた。こう答えた。
被告人 「そのときは(官舎のことは)わかりませんでした」
これが裁判なのだ。
特殊詐欺、特殊強盗の連中は、末端者の個人情報を握って脅す、それはお約束だ。が、「脅されて仕方なく」は裁判所には通用しないんですよと、私がここでどんなに力説しても、全く無駄だよね。
これをお読みのあなたの専門ジャンルでも、そういうこと、あるでしょ。そんなもんですよ、世の中は。頑張っていきましょう。
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