ぴょんぴょん飛び跳ねて去った!
かつて丸13年間続けたメルマガでは、珍しい事件、珍しいシーンを中心にレポートしたもんだ。
2013年10月21日発行の第1171号「前屈みでぴょんぴょん飛び跳ねて去った!」を、先日たまたま読み返した。珍しいというか何というか、ここに再掲しよう。若干、加除訂正等して。
午後一(いち)はどうしようか若干迷ってたら、いつもお世話になってるマニア氏が教えてくれた。
あの事件の被告人は女性で、前刑の裁判のとき、だいぶ暴れて退廷させられたり、大変だったよと。へぇ~。
つーことで13時30分~14時30分、東京地裁816号法廷(20席)、その女性被告人の「公務執行妨害、傷害」の新件を傍聴した。
13時20分、バー(傍聴席の前の柵)の中で、書記官と事務官が長机を準備し始めた。
ははあ、被告人席(弁護人席の前のベンチ)に被告人が座ったら、その前に長机を置き、被告人の動きを封じるのだな?
13時24分、奥のドアから身柄(拘置所)の被告人が入ってきた。
同行の刑務官が、なんと6人もっ! よっぽど暴れそうなんだぁ! ※刑務官は通常2人。
被告人は、背骨が湾曲したお年寄りのように前屈みで歩き…。
両手首に手錠をかけられ、その手錠は、腰に回された腰縄につながれてる。手はへその前からあまり動かせない。
その状態で、顔の左側に多くかかった髪(脱色と黒とまだら)の先を、両手の指でしきりにいじっているのだった。
被告人席のベンチに被告人が座り、その裁判官側に2人、傍聴席側に1人の刑務官が座り、合計4人の前が長机でふさがれた。
残る刑務官3人と、傍聴席側のドアから来た刑務官1人が、法廷内に適宜立つ、そんな陣容で裁判は始まった。
被告人は、手錠と腰縄を解かれてからも終始ひどく前屈みで、顔の左側に多くかかった髪の先を両手の指でいじり続けた。
髪の間からときおり見える容貌は、なんと! 鼻すじが通って目はぱっちり、ちょっとアイドルタレントのように可愛かった。
人定事項について、可愛い小声で、断片的につぶやいた。生年月日から計算するに、27歳だ。
北関東の生まれで中卒、2008年から2012年にかけて前科3犯。うち2犯は「公務執行妨害」。
今年8月13日(火)23時20分頃、警察官が職務質問。被告人が持っていた健康保険証が、遺失物の疑いがあるとして四谷署へ任意同行…。
こういう場合の「任意」は、逮捕してないという意味にすぎない。世間がイメージする「任意」では決してない。
翌14日(水)1時31分頃、住所を明らかにせず、保険証の還付を受けずに立ち去ろうとしたので、警察官(女性かな)が被告人の腕をつかんで職務質問を継続しようとしたところ…。
「うるせーんだよ!」と警察官の頭頂部をゲンコツで殴り、髪を引っ張り、顔面をひっかき、ひざ蹴りし、他の警察官から制止されるまで暴行を続けたという。
私がメモできた時刻に間違いがなければ、職質から2時間以上も経過してる。被告人が頭にくるのもわかる気が…。
被告人質問を、ほぼ全部書き出そう。
弁護人 「平成19年から、公務執行妨害を5回くらい、くり返してるね」
被告人は、両手で髪をいじりながら、かすかにうなづく。
弁護人 「どうして警察官に暴力をふるってしまうんですか?」
被告人 「………(髪をいじりながら、かすかに首をひねり、可愛い小声で)イライラするから」
弁護人 「でもそれで刑務所に入るのはバカらしいと思いませんか」
被告人は無言、というか無反応。前屈みの姿勢で髪を両手の指でいじり続ける。視線は常に下。その状態を以下、単に無言という。
弁護人 「年少のとき、義理の父親から虐待された…」
被告人の可愛さからして十中八九、性的虐待か、と傍聴マニアは直ちに想像する。
被告人 「………(無言のままかすかに首をひねり、可愛い小声で)わかぁんなぃ」
弁護人 「(前刑の)判決に、統合失調症、境界性人格障害…うつ病で、入退院をくり返してると…」
被告人 「………わかぁんなぃ」
薄く微笑んだように聞こえた。
弁護人 「虐待…統合失調症…関係あると思いますか?」
被告人 「………(薄く微笑み)わかぁんなぃ」
弁護人 「今後、(公務執行妨害を)しないようにしようと考えてますか?」
無言のまま、かすかに肯いた、ように見えた。
弁護人 「お母さんは何か言ってますか?」
無言。
弁護人 「今後の仕事や生活については、どうしていこうと?」
無言のまま、かすかに首をひねった。
弁護人 「今後、お母さんと住んでいきますか?」
無言。
弁護人 「今後どうしたらこういうこと、しないで済むようになると思いますか?」
無言。
弁護人 「これで終わります」
次は検察官から。
検察官 「あなた、どうしてこんなことしちゃったのか、イライラしたから、それでいいの?」
被告人 「………(髪の先をいじりながらかすかに)はぃ」
検察官 「こういうことしちゃダメと分かった?」
被告人 「………(髪の先をいじりながらかすかに)分かんなぃ」
検察官 「じゃ、今後もイライラしたら、やっちゃうかな?」
無言のまま、かすかに肯いた。
検察官 「終わります」
次は裁判官から。
裁判官 「基本的にはお母さんと住んでるんですかね」
被告人 「………(髪の先をいじりながらかすかに)はぃ」
裁判官 「事件のときは?」
被告人 「………(髪の先をいじりながらかすかに)帰ってなかった…」
裁判官 「どんな風に暴力ふるったか、覚えているんですか?」
無言。
裁判官 「答えないということで、いいですか?」
無言。
裁判官 「じゃこれで終わりますね」
13時44分、論告。検察官は「粗暴な性格がうかがえる…規範意識は極めて乏しい」と、いつもの調子で責め、懲役2年を求刑。
弁護人の最終弁論は、虐待や病気のことを簡単に挙げ、なにとぞ寛大な判決を…。
被告人の最終陳述も、被告人を座らせたまま行われた。
被告人 「………(うつむいて髪の先をいじりながらかすかに)大丈夫です」
こういう受け答えができてれば、刑事責任能力は完全にあり、とされるのだ。実刑は間違いない。
13時48分閉廷。18分間のスピード裁判である。
再び手錠と腰縄を付けられた被告人は、老婆のように前屈みになり、髪の先をいじりながら奥のドアへ去った、帰りはなんと、ぴょんぴょん飛び跳ねるように!
俺は傍聴席で、呆然と思った。
こんなの、有罪判決を言い渡して、刑務所へ送って、いったい何になるんだぁっ!
約2週間後の判決も傍聴した。懲役1年6月、未決10日算入、訴訟費用は不負担。
私は強く思った。司法もまた、だいぶ精神を病んでるんじゃないか!
『メガトン級「大失敗」の世界史』(トム・フィリップス著、禰宜田亜希訳、河出文庫)を読み終えた。
すごく変わった(個性の強い)、凄く面白い本だ。
日本の司法の病みなんて、ちっともおかしくない。普通じゃん。
でもね、後世の人が「そんなの普通じゃん」と失笑するはしょーがないとして、現在を生きる者がそれではまずい。
ゆえに、日本国憲法は第12条でこう定めているんだろうと。
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
間もなく憲法記念日。
国民の義務として、納税、勤労、教育の義務がよく言われる。
加えて、愛国や忠誠を義務にすべく自民党(その有力母体と思われる日本会議とか)は狙っているようだ。
第12条、「不断の努力」義務、これを言う記者クラブメディアは今年もまた、、、なくても嘆かないように。
第12条を、国家の側が宣伝するはずがないじゃないか。これは国民自身がつかみとらねばならないのだ。頑張っていきまっしょい。
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