罰金判決で裁判官は必ず「換刑処分」も言い渡す
「被告人と被告」に続いて、刑事裁判に係るメディアタブーのコーナーです。
罰金刑はこう言い渡される。
裁判官 「主文。被告人を罰金×万円に処する。その罰金を完納できないときは金×円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する」
「その罰金を…」からの部分、聞いたことがない?
いいえ、ぜーったい聞いてます!
以下は刑法第18条、その第4項をよく見てください。
(労役場留置)
第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
2 科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。
3 罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、三年を超えることができない。科料を併科した場合における留置の期間は、六十日を超えることができない。
4 罰金又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。
5 罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
6 罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。
罰金刑(財産刑)を執行できないとき、労役場留置(自由刑)に換えて執行する。換刑処分という。
この換刑処分を、裁判官は、刑法第18条第4項により、言い渡さなければならないのだ。
労役場留置は自由刑の執行であり、1日5千円の労働ではない。
暇つぶしでしかない軽作業で、ノルマなし、土日は休みで、休みの日も労役場留置の日数としてカウントされる。
自由を奪う期間を、1日5千円で計算するのである。
罰金額が数十万円の場合、換刑は1日5千円が普通だ。まれに、1万円のこともある。
第18条の第1項が、罰金の労役場留置は1日以上2年以下と定めている。2年を超えることはできない。
だから、罰金額が巨額だと1日当たりの金額が大きくなる。
けど、罰金額を2年(730日)で割るってことではないんだね。
たとえば覚醒剤6㎏を密輸した事件は、懲役12年、罰金600万円、換刑1日1万5千円だった。割り算すると約400日だ。
マルチ商法の脱税事件は、懲役1年2月、罰金2200万円、換刑1日15万円だった。同、150日弱だ。
逆に、というか、こんな言渡しもある。
裁判官 「主文。被告人を罰金×万円に処する。未決勾留日数中その1日を金×円に換算して、その罰金額に満つるまでの分をその刑に算入する」
罰金はもう払い終わったことにする、という意味だ。労役作業なんかしてないのに。
たとえば、車上生活者が免許更新できず無免許で捕まった、なんて場合、罰金の相場は30万円、どうせ払えないし、そもそも裁判所や検察庁からの郵便が届かない、じゃあ、逮捕・勾留しといて、満つるまで算入で処理しよう、とは裁判官も検察官も書記官も言わないけども、そういうことなのだね、という裁判がときどきある。
満つるまで算入、私の好きな言葉だ。
この換刑処分、メディア報道は絶対に触れない。タブーらしい。
タブーのあるところデマあり。
「交通違反の罰金を拒否ったら刑務所で日給5千円の強制労働」といったデマが匿名掲示板などにある。
デマのせいと思われる殺人事件もかつてあった。
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