前回は仲間がドジってパクられたってとこあったんで
2020年4月1日、「覚せい剤取締法違反」が「覚醒剤取締法違反」になった。
変わる前の、心に残る「覚せい剤取締法違反」の裁判を1件、伝説のメルマガからお届けしたい、若干の加除訂正等をして。いつものように、メモしきれなかったところは「…」でつなぐ。
東京地裁刑事第3部、岡部豪裁判官、1430~1530、727号法廷(20席)。
被告人は身柄(拘置所)。42歳、坊主頭、黒Tシャツにボーダー柄の、パジャマのようなズボン。
開廷前、刑務官2人に挟まれて座る被告人が、手錠をかけられたまま、手の指をパキポキッと器用に鳴らし、思いっきり、のけぞった。チョー悪そ~!
渋谷区内において、職務質問による任意の所持品検査により、アルミ箔に包まれた覚せい剤約0.064gの所持が発覚。尿を任意提出。使用も発覚。翌々日、家宅捜索。自宅に0.618g所持。
2年前に東京地裁で、覚せい剤により懲役1年6月、執行猶予3年を宣告されている。今回、実刑(&前刑の執行猶予取消し)はもう確実だ。
弁護人は、ちょっと見かけない年配男性。老人というほどではなさそうなのに、頭が固そう。
弁護側の立証は、被告人質問のみ。
この被告人質問、私は非常に感激した。珍しく、やりとりのほぼ全部を書き出す。長くなるけど、許してねっ。
弁護人 「生まれて1年足らずで、ご両親、離婚…知ったのは?」
被告人 「え~、中学校の2年か3年です」
弁護人 「お父さんは、後添えの方と…あなたは継母(けいぼ)に育ててもらった…」
被告人 「物心ついたときには(継母だった)…」
弁護人 「それまでは本当のお母さんだと?」
被告人 「当然そうです」
弁護人 「(継母だと)知ったきっかけは?」
被告人 「生みの親(実の母親)のお姉さんだか妹だかが、(実の母親が)交通事故で死んだらしくて、お墓参りに来てくれって、初耳で、意味が分からなくて、親に相談したところ、まぁ、じつは、と」
へぇ~、そんな人生もあるんだ~。ショックだよね~。
弁護人 「それ聞いて、継母との間、おかしくなったとか?」
弁護人は、犯行の原因はそういう生い立ちにもあるのだと、したいようだった。だが被告人は、きっぱりこう即答した。
被告人 「ないですね」
弁護人 「定時制高校は、働きながら通ったんですか?」
被告人 「仕事は、田舎なんで、そんななくて、半分くらい…」
弁護人 「それでも定時制高校へ通ったのは、どうしてですか?」
弁護人は、不幸な境遇で全日制へ通えず、しかし頑張った、としたいようだった。だが…。
被告人 「単純に自分が勉強したくなかったんで、でもまぁ、学校くらいは出とけと…」
弁護人 「25歳くらいから、鉄筋工として働いてきたんですね」
被告人 「平成×年まで15年間…」
弁護人 「鉄筋工とはどういう仕事ですか?」
被告人 「棒状の鉄で、柱、壁、床、天井をつくる仕事です」
なんと明解な説明。いいねっ。
弁護人 「刑務所出ても、仕事を続けられますね?」
被告人 「そうですね、雇ってくれるとこがあれば」
弁護人 「逮捕されたときは、××の××で働いてましたね?」
被告人 「はい」
え~、それって有名な老舗ソープランドじゃん!
弁護人 「昼の12時から夜は2時、3時まで働いてたんですね?」
被告人 「はい」
弁護人 「そうすると、すぐ帰宅できない。それで(店に)泊まり込んでたんですね?」
被告人 「そうですね」
弁護人 「休みは月に2、3回…きつかったですか」
被告人 「肉体労働には慣れてますんで、時間の拘束は長いですけど、きつい感じは、さほどはなかったですね」
弁護人 「仕事きつくて、薬に手を出したとか…」
被告人は、きつくないと言ってるのに、仕事のストレスで薬を、という形にしたいんだなぁ。被告人はきっぱり答えた。
被告人 「仕事は関係ないです」
弁護人 「(逮捕の前日に外国人から買った覚せい剤を)何回くらい使用したんですか?」
被告人 「捕まるまでに、ですか? 回数というか、(小分けした包みを)4つ持って捕まった…同じ内容量で、10…12~13回は使ってます」
弁護人 「(残念そうに)は~、そんなに…」
被告人 「(きっぱりと)イッちゃいます」
弁護人 「前日も休みでしたか」
被告人 「連休です」
弁護人 「映画を観に、渋谷へ」
被告人 「はい」
弁護人 「映画館や何かのトイレで、お札を丸めて(あぶりで)吸引…」
被告人 「煙自体は臭いはほとんどないので、バレないはずです」
被告人は、映画を観に渋谷へ出かけるに当たり、睡眠不足で居眠りしそうだったので、覚醒するために覚せい剤を持って出かけた、というのである。
そういえば某裁判所内で薬物の売人が商売をやってると聞いたことがある。傍聴席での居眠り防止? まさかね。
弁護人 「あなたは、自分自身で考えたとき、それなりの中毒症状になってるんですか?」
被告人 「でもまぁ、月に2、3回しかない休みのとき以外は、とくにやりたくないとか…禁断症状、出るでもないんで、そんなに中毒でもないのかな、と」
弁護人 「注射での使用は?」
被告人 「ないです」
弁護人 「パイプ吸引の理由は?」
被告人 「注射、嫌いなのと、注射だと効きがいいんで抜けたときちょっとつらいと、そういうのもあって(注射には)手を出さないように」
弁護人 「平成×年に執行猶予判決、そのとき覚せい剤についてどう思ってた?」
被告人 「単純に、そのときはヤメようと思ってました」
弁護人 「一定期間、服役することになりますが、どういうように考えてるのか、きちっと、この場で言ってもらえますか」
被告人 「そうですねぇ、前回もヤメようと思ってたんですが…年齢的に、次もその次もでは、やり直しきく歳じゃないんで、自分の中では、きっぱり手を切ろうと」
弁護人 「覚せい剤…常習…大きな犯罪…たいへん危険なものだと…」
被告人 「はい」
弁護人 「絶対これ最後に、手を出さないですね?」
被告人 「(きっぱりと)大丈夫です」
弁護人からの質問は15分間だった。
15時07分、次は検察官から。検察官は、黒いパンツスーツの、素敵なお姉さんだ。これが良かったス。
検察官 「35歳頃から覚せい剤を…どうして?」
被告人 「20歳くらいのとき、大麻で捕まって、そのとき留置された人(同房者)が覚せい剤で、そういうこと、話聞いて、それで、街へ行ったとき(売人から)声かけられて、モノは何だ、覚せい剤だ、じゃ、やってみようか、と」
やっぱり、留置場や刑務所は、犯罪の種を植える場所なんだねぇ。
検察官 「そういうこと、聞いた、とは?」
被告人 「やったときの感じ…しゃきっとして、寝ないで仕事できると、その人も職人さんで…(街で)声かけられて、大麻はどういうものか分かってたんで、大麻はヤメてた。覚せい剤か、そっちもいいかな、と」
検察官 「今回も外国人から声をかけられて…かけられやすいとこ、あるんですか?」
被告人 「(声を出して笑い)なぁ~いです!」
検察官 「なんで断らなかったんですか」
被告人 「ま~、意志が弱かったんでしょ」
検察官 「いっしょに使う仲間は?」
被告人 「いません。前回はいっしょにパクられた…」
検察官 「いつもどこで使用してました?」
被告人 「自宅です」
検察官 「公共の場所で使ったことは?」
被告人 「あります」
検察官 「勤務先のお店(ソープランド)の中では?」
被告人 「わ~、ないです」
検察官 「小分けされた覚せい剤(が、たくさん自宅から発見されているが)、あらかじめこんなに小分けしとく必要あるんですか」
被告人 「ないですけど、なんか、やり始めると止まらなくなって、テレビ見ながらやっちゃうとか」
検察官 「(売人から)1回買うと、注射器がついてくるんですか」
被告人 「4本」
検察官 「4本もオマケについてくるんですね。それを2本ずつ封筒に入れて…これ、なんで?」
そういう封筒も、被告人宅からたくさん発見されているんだそうだ。
被告人 「2本にして、絞ってポケットに入れて、仕事の帰りにコンビニのゴミ箱へ捨てようと思って」
検察官 「しかし捨てなかったのは?」
被告人 「家に帰れなくて、パクられたからです。普段(家に)帰ったら、掃除なんかしないですから、休みが連休でとれたのは久しぶりだったんで」
検察官 「1本だけの袋もあるし、8本のもあるし」
被告人 「それは、ばーっと入れたやつ。(覚せい剤を)やってキマってるときは、けっこう考えずにいろいろやってるんで」
検察官 「空のビニール袋は?」
被告人 「中身、こびりついてますんで。売人の電話番号とか聞いてなかったもんですから、ちょっと1回やりたいなって、なったとき、連絡がつかないと、けっこうガクッとくるんで」
要するに、こびりついたものがもったいないという趣旨かと聞こえた。
検察官 「けっこう中毒になっていたと?」
被告人 「あればあるだけやっちゃいますけど、なきゃないで…」
検察官 「執行猶予中に、どうして(また覚せい剤に)手を出したんですか」
被告人 「前回は仲間がいて、仲間がドジってパクられたとこあったんで、自分が気をつけてれば捕まらないと…」
なるほどね~。しかし、職務質問を受け、任意の所持品検査でパクられた…。いったん狙いをつけたら絶対逃がさない、プロフェッショナルな職質だったのか。
検察官 「覚せい剤で眠気を覚ましてまで、観たい映画があったんですか?」
被告人 「ありましたね。×日(逮捕の翌々日)までの映画で、そのあと、いつ休みか分かんないし、前日は買い物で忙しいし、連休の2日目に映画、観に行こうと」
残念ながら、映画のタイトルまでは明かされなかった。
検察官 「覚せい剤、ヤメられますか?」
ヤメると答えれば、前回もヤメると約束したではないか、と検察官は突っ込むはず。
被告人 「前回ヤメると言って、今回このザマですんで」
次は裁判官から。
この岡部豪裁判官は、眉毛に特徴があって、まだ数回しか私は傍聴してないけど、へ~んな人だ。←今井に言われたかねぇよっ!
裁判官 「ご両親は?」
被告人 「はい、おります」
裁判官 「連絡は取ってるんですか」
被告人 「月に1、2度は」
裁判官 「今回のこと、ご両親は知ってるんですか」
被告人 「知ってます」
裁判官 「情状証人として来てもらうことは、考えなかったんですか」
被告人 「手紙、1通出して、報せただけなんで」
裁判官 「なぜ?」
被告人 「ま、自分のやったことで、いちいち来てもらうのも悪いかなと。自分独りのことですんで、親兄弟引っ張り出すのも悪いかなと」
裁判官 「捕まるまでは、覚せい剤と映画以外、楽しみはないと?」
被告人 「同僚と酒飲んでるのも楽しいし、ま、いろいろと」
裁判官 「じゃどうして…」
被告人 「少ない休みの日に、仕事の人間、からまないところで、好きなこと、思いっきりやりたい、というのがあったんだと思います」
うーん、なるほどねぇ。私はウンウン肯いた。
私は、傍聴席の最前列中央付近、裁判官から見れば被告人のすぐ後ろにいる。私がウンウン肯いているのは、裁判官にも当然見えるだろう。
もちろん、法廷に真実がぜんぶ出てくるわけじゃない。
被告人は、覚せい剤をやってデリヘルとか呼び、自宅で大いに楽しんでいたかもしれない。小分けにした覚せい剤や注射器を、何か対価を得て譲り渡していた、かもしれない。
そういう可能性はあるけれども、傍聴席から見ている限り、説得力のあることをずばずば言う、好感の持てる被告人だった。
裁判官 「なにか、あなたを見てると、ちょっと突っ張っているところが…」
被告人 「誰に対して、ですか」
いいねえ、その返し。「司法の威厳に対して」とは裁判官は言わず…。
裁判官 「周囲の人に対して」
被告人 「仕事場の人間に対してですか」
裁判官 「家族、呼ばないっての…」
被告人 「関係ないですから」
裁判官 「関係ないの」
被告人 「どうしてあるんですか」
おお~!
裁判官 「そういうふうに思ってるから、あなた犯罪をくり返す…」
被告人 「そうかもしれないですね」
裁判官 「自分がどうなっても家族に影響ないと?」
被告人 「あると思いますけど、呼ぶのは悪いかなと」
裁判官 「こうなったこと、家族に対し申し訳ないと思いませんか」
被告人 「思ってます」
裁判官 「それを直接、伝えようとは?」
被告人 「思ってます、出所してから伝えようと」
被告人質問が終わると、被告人は被告人席に戻り、すんごくのけぞった。
15時23分、論告。求刑は懲役2年。
15時25分、最終弁論(弁護人による最終意見)。
弁護人 「25歳から前回の逮捕まで15年間、被告人は鉄筋工としてマジメに働いてきました。前回逮捕されたことと、建築業界の不況で…×年×月、風俗店従業員となり…客観的判断として勤務が重労働だったと…」
ここで、検察官が苦笑して異議を述べた。
検察官 「この点、被告人は否定してますが」
弁護人 「だから弁護人の意見です」
検察官 「それ、本人が違うと」
弁護人 「だけども弁護人としてのひとつの評価と…」
裁判官 「ま、そういうことで(笑)」
弁護人は、昔ながらのテンプレートで弁論をまとめようとし、どんな弁論だろうが判決にそう影響しないのに、マジメなお姉さん検察官は引っかかった…そういう“図”が見えて、私は可笑しくて可笑しくて。
そして被告人の最終陳述。被告人質問のときとは違う、なーんか妙な節回しをつけ、軽やかにきっぱりと述べた。
被告人 「はいっ、これを機にきっぱり断ち切るようにしたいと思いますので、よろしくお願いしますっ、以上ですっ!」
7月5日(月)、判決も傍聴した。懲役1年6月、未決10日算入。
前刑(懲役1年6月)の執行猶予(3年)が満了するまで、あと約1年。控訴、上告で満了を迎えるのは、困難だろう…。
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