2009年6月8日の、やたら長い記事、その中程に、前代未聞というべき珍しいシーンが出てくる。その部分を切り取り、若干の加除訂正をして以下に移すこととした。
6月5日(金)東京地裁、傍聴席20席の法廷はぎっしり満席だった。2、3席空けばすぐまた埋まる。まるで夏休みのようだ。
判決が連続4件、うち3件目は…。
16時15分から「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反、傷害」の判決。
裁判官 「(被告人を証言台の前に立たせ)判決の前に、何か言いたいことがありますか? やり残したこととか」
ええっ? 最終陳述は前回で終わってるはず。判決期日にわざわざそんなことを言うって!
弁護人 「ど…どういう手続きなんでしょうか?」
弁護人は、ときどき見かける、私が“格闘技系”と勝手に呼んでる人だ。
裁判官 「んーとね、どうしようかな、うん…今回とくに定まった住所もなく、このまま社会に戻ったあと、どうするんだ? と前回…。昔勤めてた池袋の会社へ戻ってきていいんだと…」
確実に戻れるのか、という趣旨のことを裁判官は尋ねた。
被告人 「…連絡は取り合ってるんですけど…」
裁判官 「その結果(確実に戻れるならそのこと)を、この法廷に出すつもりはないのかな。はっきり言えば、(戻れるというのは)あなたの主観だけども、客観的な…(メモしきれず)…はないと?」
被告人 「戻ってきていいとは言われてたんですけど」
裁判官 「それ、一筆書いてもらうとか? 証拠がないんだよ…」
ええっ? 釈放後に確実に仕事を始められるなら執行猶予を付ける、無職(&たぶん住所不定)の状態になるなら実刑、猶予か実刑かぎりぎりなので、安心して執行猶予を付けられる証拠があるなら出しなさい、とチャンスを与えてるようにしか、私が不勉強なのかどうか、聞こえないんですけどっ。
一般に、裁判は紙の上で行われる。大事な情状は、本人の供述だけでは足りない、雇用主なら雇用主から一筆もらってほしい、あるいは法廷で証言してほしい、ということが確かにあるやに思われる。
そして、一般に弁護人は、特に国選弁護人は、そういう頭がなく、機微が分からず、ありきたりな弁護しかしないことが、多いとまでは言わないけども、珍しくない。本件については詳細を知らないので何とも言えないが。
弁護人 「これは、調書に残すんでしょうか?」
調書というのは、あれ、何ていうんだっけ、もう忘れちゃった。その期日にどんな手続きがあったか、書記官が簡潔に記載して記録に綴じ込む、そういう書類のことだ。
裁判官 「今のは調書に残りません。再開するかどうか決めるに当たって、事実上の取調べということなんで」
裁判官は、弁護人と被告人で相談するよう言い、2人はその場でひそひそ話した。そして…。
弁護人 「事前に書面で申し上げたとおりです」
最終弁論要旨のとおり、ということだね。すると…。
裁判官 「ほんとにそれでいいんですか? 刑の変わる可能性もありますんで。どうですか、ほんとにいいんですか?」
執行猶予か実刑か、よっぽどぎりぎりなわけ?
被告人 「…しか…その会社…」
何言ってるのか、ほとんど聴き取れない。
弁護人 「あの…不勉強か知れませんが、これはどういう手続きなんでしょう」
裁判官 「職権で再開するか決める…規則33条1項で当然できると思います。(調書には)結果だけ…経緯については残す必要ないと思います」
刑事訴訟規則の、これのことかなぁ…いや、わかんない、別の規則かも。
(決定、命令の手続・法第四十三条)
第三十三条 決定は、申立により公判廷でするとき、又は公判廷における申立によりするときは、訴訟関係人の陳述を聴かなければならない。その他の場合には、訴訟関係人の陳述を聴かないでこれをすることができる。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。
また弁護人と被告人がひそひそ話した。
被告人 「会社…というのが…へんな感じでヤメるようになってて…」
裁判官 「かえって聞きにくい(被告人は言いにくい)こと聞いちゃったかな? そうすると、とくに思い残すこと、やり残したこと、ない?」
もう完全に、これで実刑が決まった、と聞こえる。被告人はどれくらい分かってるんだろうか。
被告人 「………でヤメたので、直接行って頭を下げて……って言えば、はい…」
逮捕、勾留され長く姿をくらましていても、戻ればすぐまた雇ってもらえる、そういう業界、そういう関係、らしい。
裁判官 「今、労役場留置中だから、直ちに釈放されることないから、しょーがないのかな?」
ん? 労役場留置中? てことは、前の罰金を払ってないまま本件をやったわけか、あら~。
裁判官 「じゃ、よろしいでしょうか」
弁護人 「それは、どう聞いてよろしいのでしょうか…」
弁護人は、だいぶ戸惑ってるようだった。しかしきっぱり言った。
弁護人 「弁論再開、請求しません」
ようやく判決が言い渡された。
裁判官 「主文、被告人を懲役8月に処する。主文は以上です」 ※8月=はちげつ
判決理由によると、朝8時頃、総武線の電車内で痴漢をし、手をつかまれて振りほどき、勢いよくホームを走り、駅員を突き飛ばした(手で突いて転倒させた)という事件らしい。
前科は、聴き取れたところによれば、2004年7月に痴漢で罰金30万円。同年11月に客引きで…(聴き取れず)。2005年3月に風営法で罰金20万円。2007年11月に痴漢で罰金50万円。その納付もしないうちの本件痴漢。駅員は宥恕の意思を示している…。
公判請求が初めてで、懲役8月程度で実刑とは、私が1600件ほど傍聴してきた限りでは、だいぶ異例だ。
罰金刑を受けても受けても次々と犯行を重ね、最後の罰金を払わず、同種犯行に及び、駅員を突き飛ばして逃走を図った、そのへんは悪質ゆえに、実刑が相当、でもでもしかし、稼働先が決まっているなら執行猶予を、ということだったのか。
こんなシーンを目撃できるのが裁判傍聴の醍醐味だ、と興奮する私は裏街道、独り旅、じゃないよね?