ストーカーに対する「警告」「禁止命令」とは
警視庁(いわば東京都警察本部)で2022年のいろいろ統計をコピーしてきた。
第68表「ストーカー規制法違反等の措置状況」に、「ストーカー行為等に係る相談」は1207件(前年は1102件)とある。
東京都内で2022年の1年間に1日平均3.3件の相談があったってことだ。
相談といってもさまざまなんだろうけど、けっこう多いね。
その先を、裁判傍聴の参考になればと、ちょっと詳しく見てみよう。めんどくさい部分は読み飛ばしていただければ。
「警告書の交付(第4条)」が504件(前年は483件)。
以下、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(略称:ストーカー規制法)を引く。
「2」「3」とあるのは第2項、第3項だ。
『法令作成の常識』(日本評論社)によれば、この番号は昔はなかった。昔は改行で分けていた。しかしその後、行の頭に番号を付すようになった。項の順番を調べ探す便宜のための符号なので、第1項には「1」という項番号をつけないのだそうだ。勉強になるねえ。ならねえよ? うっそ。
以下、私のほうで本文の一部を太字とする。
2 一の警察本部長等が前項の規定による警告(以下「警告」という。)をした場合には、他の警察本部長等は、当該警告を受けた者に対し、当該警告に係る前条の規定に違反する行為について警告をすることができない。
3 警察本部長等は、警告をしたときは、速やかに、当該警告の内容及び日時を第一項の申出をした者に通知しなければならない。
4 警察本部長等は、警告をしなかったときは、速やかに、その旨及びその理由を第一項の申出をした者に書面により通知しなければならない。
5 前各項に定めるもののほか、第一項の申出の受理及び警告の実施に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。
「禁止命令等(第5条)」が164件(前年は139件)。
第5条は第15項まであってやたら長い。第2項までのみ以下に。漢数字は号、第1号、第2号だ。
2 公安委員会は、前項の規定による命令(以下「禁止命令等」という。)をしようとするときは、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。
「援助の実施(第7条)」が742件(前年は619件)。警察がやったこととしてこれがいちばん多い。
2 警察本部長等は、前項の援助を行うに当たっては、関係行政機関又は関係のある公私の団体と緊密な連携を図るよう努めなければならない。
4 第一項及び第二項に定めるもののほか、第一項の申出の受理及び援助の実施に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。
国家公安委員会規則とは「ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則(平成十二年国家公安委員会規則第十八号)」だ。その第15条がこう定めている。
(警察本部長等による援助)
第十五条 法第七条第一項の国家公安委員会規則で定める援助は、次のとおりとする。
一 申出に係るストーカー行為等をした者に対し、当該申出をした者が当該ストーカー行為等に係る被害を防止するための交渉(以下この条において「被害防止交渉」という。)を円滑に行うために必要な事項を連絡すること。
二 申出に係るストーカー行為等をした者の氏名及び住所その他の連絡先を教示すること。
三 被害防止交渉を行う際の心構え、交渉方法その他の被害防止交渉に関する事項について助言すること。
四 ストーカー行為等に係る被害の防止に関する活動を行っている民間の団体その他の組織がある場合にあっては、当該組織を紹介すること。
五 被害防止交渉を行う場所として警察施設を利用させること。
六 防犯ブザーその他ストーカー行為等に係る被害の防止に資する物品の教示又は貸出しをすること。
七 申出に係るストーカー行為等について警告、禁止命令等又は禁止命令等有効期間延長処分を実施したことを明らかにする書面を交付すること。
八 その他申出に係るストーカー行為等に係る被害を自ら防止するために適当と認める援助を行うこと。
文言としてずいぶん被害者に親身だなあと思う。こういうの、私が普段見る法令の中では珍しい。
そして、「ストーカー行為罪(第18条)」による検挙は166件(前年は102件)。
「禁止命令等違反(第19・20条)」による検挙は16件(前年は15件)。
「ストーカー行為」「つきまとい等」「位置情報無承諾取得等」とはそもそも何か。
少し戻ってストーカー規制法の第2条に定義がある。「つきまとい等」については第1項がこう定めている。
第二条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
六 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八 その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。
そんな感じで、「位置情報無承諾取得等」については同第3項に、「ストーカー行為」については同第4項に定義が定められている。
ちなみに私は各種法令を「e-Gov法令検索」で見ている。
このサイト、広告がない。どこから資金が出ているのか、サイト内を調べてもどうもわからない。総務省か内閣府かどこかが親玉と以前聞いたような気がするが定かじゃない。さすがに闇の組織ってことはなかろうと(笑)。
「ストーカー行為等の規制等に関する法律違反」の刑事裁判も私はずいぶん傍聴してきた。
こんな趣旨を言う被告人が多い。
被告人 「恋愛感情とか怨恨の感情とか、そんなものはありません。別れの理由を本人から聞きたかった、それだけです、ほかになにもないです」
その言い分は全く通らない。
裁判は、本人の内心ではなく、やったこと、事実をもとに認定、判断するのである。
「殺すつもりはなかった」とどんなに言い張っても、鋭利頑丈な刃物で身体の枢要部を複数回深々と突き刺したなら、殺意が認定される、同じようなものだ。
しかし、少なからぬストーカー犯は、自分は当たり前のことを普通にやっただけ、ストーカー犯と決めつけられ逮捕され、警察がおかしい、検察官、裁判官がおかしい、自分こそ被害者だ、脳内ではそのようになっているらしい。
とはいえ逮捕以降ずっと勾留されており、早く出たい。法廷で逆らっても損なだけ、程度のことはわかる。
そこで「自分が間違っていると今度こそ理解した。被害者には二度と連絡しない、近寄らない」と誓って執行猶予判決をゲット、すぐにまたつきまとい等を開始する者がいる。
いったん執着したら離れない。脳が執着で固まる。リアル生活の不安とか悩みとか入り込む余地はない。非常な安定状態、目的に向かって一直線、気持ち良い、のではないかと私は見ている。
宗教なんかも安定をもたらしてくれる。
私はどうなのか。
裁判傍聴へ出かけたい。でも原稿を書きたい。あれこれ開示請求したい。健康のため有酸素散歩もしたい。そうこうするうち日が暮れてきた。今夜は何を肴(さかな)にどの酒を飲もう。やっぱり冬は姫柚子をたっぷり搾って焼酎甲類をだばっと注ぐ、あれに限る。よだれが出てきた、うふふ。
そんなふうに日々が飛びすぎていく。良きかな、である。
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