原稿書きに疲れてなにげにTwitterを見てたら、高橋ユキさんのtweetに「ぬわにいぃぃ~~~っ!!!」となった。以下は1月24日付け朝日新聞、の一部。
窃盗症を理由に「常習性」認めず 「異例」の地裁判決
万引きを繰り返したとして常習累犯窃盗罪に問われた高知市の無職女性(33)の判決公判が24日、高知地裁であった。山田裕文裁判長は窃盗症(クレプトマニア)を理由に「常習性」を認めず、窃盗罪として懲役1年2カ月(求刑懲役4年)の判決を言い渡した。
女性は2016年、高知市内のスーパーマーケットなどで歯ブラシなど日用品計19点を盗んだ上、過去にも窃盗の前科があったとして、常習累犯窃盗罪で翌年起訴された。
判決は複数の診断書などから女性が当時、衝動的に窃盗を繰り返す窃盗症だったと認定。繰り返された万引きは窃盗症による行動制御能力の低下が原因で、性格や意思などを要件とする「常習性」には当たらないとして、より法定刑の軽い窃盗罪を適用した。
この判決がどんだけすげぇか、よろしい、クレプトマニア、万引き病の裁判を何年も注目し興奮しメルマガでレポートし続けてきた裁判傍聴師、裁判傍聴ジャーナリストの私が簡単に説明しましょう。
まず前提として、「窃盗」と「常習累犯窃盗」の違い。
「窃盗」で6月以上の懲役前科が10年間に3回(その数え方は省略)以上あるのにまたやると、事件名が「窃盗」ではなく「常習累犯窃盗」とされる。「窃盗」の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金だが、「常習累犯窃盗」は「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」により3年以上の懲役とされる。
10年以下より軽い? とんでもない。
3年以上ってことは罰金刑はもちろん3年未満の懲役刑に処されることもないのだ。んで懲役刑の上限は20年。格段に重くなるのである。ま、「常習累犯窃盗」になるのが初めてなら酌量減軽により3年未満に下げられるのが普通だけども。
それでだ、すげぇのは「窃盗症だったと認定」ってとこだ。
うざいかもしれないが、ここでも前提を説明しとこう。
窃盗症、クレプトマニア、私がいうところの万引き病、とりあえず窃盗症で統一しようか。どこからが窃盗症か、線引きは困難かと私は思う。
ただ、窃盗症といえる状態は定義できる。

窃盗症者は、どんだけ固く「万引きはもう二度としません」と誓っても、今度やれば実刑、刑務所行き、前刑の執行猶予は取り消される、ここまで支えてくれた親、子ども、夫等を激しく裏切ることになる、愛想を尽かされることになると重々承知なのに、また財布には何万円もあるのに、人によっては貯金が何千万円もあったり家賃収入で悠々自適だったりするのに、たかが数百円のものを万引きしてしまうのである。それも、いちおうキョロキョロはするのだけれど、コンビニやスーパーに付きものの監視カメラ(通称防犯カメラ)をまったく気にせず。
昔、『うしろの百太郎』『恐怖新聞』という漫画があった。低級動物霊に憑依され狂ったように人を殺傷したり自殺したり、という話が出てきた。窃盗症者は、尻尾が9本、口が耳まで裂けた恐ろしい低級動物霊に取り憑かれて万引き、そうイメージするとしっくりくる。
私が主に東京簡裁、東京地裁、東京高裁で何年も注目して傍聴してきたところによれば、検察官も裁判官も窃盗症を絶対に認めない。
万引きの裁判の役割は、法廷へ出てきた被告人(マスコミ報道では被告)に前例通りの刑を貸すこと、量刑相場の階段をのぼらせることにほかならない。世間では「裁判は真実を明らかにする場」とか根拠なく思われているようだが、とんでもない。
窃盗症を認めないための切り札がある。それは、アメリカの診断基準、DSM-5だ。窃盗症の診断基準としてAからEまであり、Aにこう掲げられている。
個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
そもそもコンビニやスーパーに「金銭的価値」のないものは陳列されていない。歯ブラシは、たとえ歯がなくてもお掃除に用いたりできる。
この部分を拾って検察官、裁判官は、「DSM-5に合致しないから窃盗症ではない」とするのである。「物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される」の部分は捨てるのである。そういう裁判を私はもうどんだけ傍聴してきたか。
ところが今回、高知地裁の山田裕文裁判長は、窃盗症を認めた! しかもっ、検察官(いわば日々の裁判の同僚)が「常習累犯窃盗」で起訴しているのに、認定罪名を「窃盗」としたらしい。あり得ない、とんでもないことだ!
求刑が懲役4年ってことは、この33歳の女性は「常習累犯窃盗」で起訴されるのは初めてじゃなかったはず。33歳でそこまで量刑相場の階段をのぼるとは、すさまじい万引きぶり、すさまじい窃盗症だったのだろう。新聞的には書けないだろうけど、いわゆる精神障害、知的障害がだいぶ重いのかも。
窃盗症と認定するには医師の診断があったはず。証人出廷してすごい証言をしたのかも。誰?
思い浮かぶのは条件反射制御法の平井愼二医師だ。平井さんの証言を私は何度か傍聴してきた。んまぁ、びっくりしますょ。
朝日新聞の記事の先を読むと、弁護人はなんと林大悟弁護士だという。林さんは窃盗症の裁判をよくやっている。マラソンの原裕美子さんの弁護人も林さんだ。
そういえば、万引きGメンの伊東ゆうさんから、香川大学が万引き問題に深く取り組んでいると聞いたっけ。そのへんも関係しているのか。
山田裕文裁判長は、途中退官の前後、長く東京高裁で陪席裁判官をやっていた。裁判長は、矢村宏さん、角田正紀さん、藤井敏明さんと代わった。そうして高知地裁の部総括判事へ移動したのだ。
今回のような判決を書いたら、同僚である検察官が検察組織につるし上げられることは承知のはず。検察組織が控訴し、高松高裁はひっくり返すだろうと普通は想像できる。それでも書いた! 覚悟を決めているのだろう。高知にすごい男がおったぜよ、となるのか。
いまネット検索してみると、この判決の報道は朝日新聞のこの記事しかないようだ。
司法記者クラブには半分傍聴マニアのような人がどうやらおいでだ。この記事は、半分マニアな記者氏が自分の興味で傍聴して、だったのかな。頼もしい!
東京へおいでの節はどうぞ私にご連絡ください、銀座か赤羽か大島(おおじま、都営新宿線)のせんべろでマニア談義をやりましょう! 楽しみだな~。
※画像は赤羽のいこい。上の画像の色の濃いのは身欠きニシンだ。隣は山芋とネギのぬた。ほかコハダにげそわさ。熱燗の酒肴にぴったりだ。いずれもだいたい180~200円。
←1月27日1時20分現在、週間INが120で3位~。
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